研究課題
本研究は超選択的動注化学放射線療法に応用可能な新たな癌治療戦略として、インドシアニングリーンを用いた超選択的動注法による光線力学温熱療法(Photodynamic Hyperthermia Therapy:PHT)の開発を目的とする。インドシアニングリーンは蛍光造影法の検査試薬、肝機能検査に用いるが光照射で発熱することが明らかになっている。臨床応用では申請者らが行っている超選択的動注法によりICGを腫瘍の栄養動脈に直接投与し腫瘍組織に集積させることで、ICGによる温熱療法とPDTの治療効果をより向上させることが可能であると考える。本研究では、まずヒト由来扁平上皮癌細胞株においてICGを用いたPHTの抗腫瘍効果を検討する。ヒト由来扁平上皮癌細胞について、ICGに光照射することで発生する熱による温熱効果と抗癌活性のあるROSの産生量を評価する。また、細胞周期を測定し作用機序を証明することで動物実験の条件検討を行うことを目的とする。次に、細胞実験で得られた結果を元にしてヒト由来扁平上皮癌細胞株によるヌードマウス皮下腫瘍モデルにおける動物実験を行う。申請者らが行っている超選択的動注化学療法では、浅側頭動脈と後頭動脈の2経路から、腫瘍の栄養動脈へカテーテルを挿入し抗癌剤の投与を行っている。この特徴を利用するため実際の臨床で行っている動注を想定して、ICGを腫瘍内および傍腫瘍組織へ投与し光照射することで抗腫瘍効果の検討を行う。今年度は、細胞実験での結果を報告する。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、ヒト由来扁平上皮癌細胞株におけるICGを用いたPHTの抗腫瘍効果の検討を行った。まず、ICGへの光照射における発熱条件の検討である。ICGの発熱させるために近赤外線治療器を用いた。近赤外線治療器を用いて温度上昇の検討を行ったところ、生体深達、PHTの効果が高い800nmの波長のレーザーをICGに当てることで80℃以上の温度上昇を示した。温熱療法では通常42.5℃以上の加温が必要であるが、実際に生体への加温を行う場合の装置の出力、電力の環境を設定した。次に、この条件を用いてヒト由来扁平上皮癌細胞株に対するPHTの抗腫瘍効果の検討を行った。ヒト由来扁平上皮癌細胞株に対して、ICGでの光照射における発熱による抗腫瘍効果を評価する。一般的には温熱療法を行うことで熱ショック蛋白(HSP)の濃度が高まることが知られている。そこで、温熱を加えた際のHSP発現量を評価するために、ヒト由来扁平上皮癌細胞株を調整し、上記で検討した発熱条件でICGへの光照射を行った。温熱刺激後、MTT assay法で死細胞の定量とWestern blottingでHSPの発現の評価を行った。MTT assay法において抗腫瘍効果を確認することができ、Western blottingでHSPの発現を認めた。最後に、ヒト由来扁平上皮癌細胞株に対するPHTにおけるROS産生の検討を行った。ヒト由来扁平上皮癌細胞株を調整し、上記で検討した発熱条件でICGへの光照射を行った。ROSの産生量は、DCFH-DA (Sigma, Tokyo, Japan)で評価した。ICGでの光照射を行うことで、ROSの産生量の増加を確認した。このことから、抗腫瘍効果のメカニズムにROSも関与していることが示唆された。今年度の結果をもとにして、次年度は動物実験を行う予定である。
平成28年度は、ヌードマウス皮下腫瘍モデルにおける抗腫瘍効果の検討を行う予定である。平成27年度までに得られた結果をもとにして、ヒト由来扁平上皮癌細胞を移植したマウスモデルを作成する。動注化学療法を想定して、ICGを腫瘍内および傍腫瘍投与し光照射によるPHTを行い抗腫瘍効果を検討する。マウスヒト由来扁平上皮癌モデルを作成する。市販濃度の範囲内で濃度を変えたICGを腫瘍局所に投与する。この範囲内で温熱療法およびPDTによる有効な抗腫瘍効果が得られ、かつ副作用が最小限に抑えられる投与量を検討する。発熱条件の検討では、ICG発熱条件の検討を目的として、横浜市立大学循環制御医学教室の協力により予備実験を行った。近赤外線治療器で、ICG(5mg/ml)をマウス大腿部に局所投与で50度以上の上昇を確認した。ICGの温熱療法への応用には既存の装置で十分であり、近赤外線治療機器の出力、ICGの濃度を調整することで温熱療法に適切な発熱条件を動物実験で検討する。この条件検討をもとに実験を行う。抗腫瘍効果の評価は、治療開始後から連日腫瘍を写真撮影して記録するとともに、腫瘍サイズから腫瘍体積 [体積=0.5×(長径×幅径2)]を毎日計測する。また、治療開始後3週間目に腫瘍組織を摘出し、病理学的解析を行う。具体的には、腫瘍摘出後、半割した腫瘍内部を記録し(写真撮影)、腫瘍組織のパラフィン切片を作製し、H-E染色を行い、腫瘍組織観察を行う。また、腫瘍組織の蛍光TUNEL染色によって、本抗癌剤によるアポトーシス誘導について検討を行う。免疫賦活によって転移性癌を制御している評価として免疫染色しHSP70の腫瘍内局在を調べる予定である。
細胞実験にかかる経費が当初予定していたよりも安価に済んだため。
平成28年度分の研究遂行にかかる消耗品、および国際学会での発表、論文投稿に使用する予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
The Open Dentistry Journal
巻: 9 ページ: 120-124
10.2174/1874210601509010120