研究課題/領域番号 |
15K20564
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
横山 愛 日本大学, 松戸歯学部, 助教 (70610252)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 唾液腺傷害 / 細胞間情報伝達 |
研究実績の概要 |
本研究の目標は低下した唾液分泌能の改善である。唾液腺は唾液をつくる腺房細胞と唾液の通り道である導管から構成される。唾液腺への頭頸部癌治療のための放射線照射や排泄導管の結紮により唾液腺に傷害が起こると、唾液を分泌する腺房細胞の数が減少し唾液分泌量が減少する。しかし、その傷害が片側である場合には反対側の唾液腺が唾液分泌機能を補うという報告がある。本研究では、左右に1対ずつ存在し個々が独立したものである大唾液腺の唾液腺間のコミュニケーションメカニズムを解明し、傷害を受けていない側の唾液腺がどのように唾液腺分泌機能を亢進させるのかを解明したい。これが解明されれば、唾液腺分泌機能が低下した唾液腺の機能回復の一助となる。平成27年度は片側唾液腺傷害時における非傷害側(反対側)の唾液腺の変化について検討した。実験は傷害側、非傷害側、偽手術マウスの非傷害側(コントロール)の3種類の唾液腺を使用した。まず初めに、重量による変化について検討した。すると重量は傷害側、非傷害側、コントロールの順で重くなった。続いて、形態変化と細胞の性状の変化について検討した。傷害側の唾液腺では、腺房細胞が委縮して小さくなり導管様の構造が増加していたが、非傷害側とコントロールではその構造に変化は無かった。また、細胞の増殖能を判定する抗Ki67抗体による染色では陽性細胞数がコントロール、非傷害側、傷害側の順で多い傾向が観察された。以上のことから、独立した左右の唾液腺が片側の唾液腺が傷害を受けると、反対側の唾液腺もなんらかの影響を受けていることが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度の計画は、唾液腺傷害時における非傷害側耳下腺の変化についての検討として、①重量による変化、②組織形態と細胞の性状の変化、③傷害側、非傷害側の唾液腺における遺伝子発現の変化の検討であった。結紮時に片側耳下腺排泄導管を隣接し並走している血管や神経を一緒に結紮することなく、排泄導管のみに確実に傷害を与えるようにするために、実体顕微鏡を用いて実験を行った。また、結紮後4日目、7日目の耳下腺を摘出する際には、結紮を行う手術時の切開のために唾液腺周囲に肉芽組織が多く、また血管が増生しており摘出が容易ではなかった。周囲に付着した結合組織を除去する際に、摘出後に結合組織を除去するのが簡単であるが、そうすると耳下腺組織に変性が起こってしまう。従って、マウスから耳下腺を剥離する前に可能な限り結合組織を除去することを試みて重量の測定を行った。抗Ki67抗体の免疫組織染色では、任意の5視野を検討しようと計画していた。しかし、実際には傷害側の唾液腺は小さくなっており、5視野を撮影するのは困難であったため3視野で検討することとした。また、通常の組織であれば細胞質と核が明確であり、細胞数を数えるのも容易であるが、傷害側の唾液腺では腺房細胞が委縮したり、小さな導管様の構造が観察されたことから細胞は核が目立ち、細胞が密集し核が重なり合っているのが散見され細胞のカウント方法を再度検討する必要があるという問題が生じた。現在は3つのテーマのうち①と②まで終了している。上記の理由から、③の研究内容まで達成することができなかったので、進行状況をやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き研究計画調書通りに研究を進める予定である。 1、傷害側、非傷害側の唾液腺における遺伝子発現の変化の検討。まず、マイクロアレイを行い、傷害による影響を遺伝子的に把握する。サンプルとしては、傷害後4、7日目の傷害側、非傷害側、コントロールの耳下腺を考えている。比較は傷害側とコントロール、非傷害側とコントロール間で行う。データの解析では、コントロールと比べて非傷害側で遺伝子発現に2倍以上差がある遺伝子に着目し、Gene Ontology解析で非傷害側に起こっている細胞プロセスを予測し、重量測定や形態解析の結果と対応するか検討する。また発現量に2倍以上差が出た遺伝子群が関わるパスウェイについてPathway解析を行う。申請者は仮説として傷害側ではリガンドが、非傷害側ではそのリガンドに対するレセプターが発現していると考えている。従って、傷害側と非傷害側でリガント対レセプターの関係が予測され、かつ発現量が高いものから目的遺伝子候補の決定を行う。 2、傷害側耳下腺からのシグナルの同定、および非傷害側でのレセプターの検索。傷害側、非傷害側、コントロールの耳下腺からRNA抽出用、液体窒素凍結用、10%ホルマリンPBS固定用のサンプルを用意する。まず、遺伝子発現を確認するために傷害側で目的遺伝子(リガンド)、非傷害側で目的遺伝子に対応するレセプターの遺伝子発現をリアルタイムPCRで定量解析する。次に、傷害側、非傷害側においてタンパク質レベルでの発現はあるのかをイムノブロットで確認する。 3、細胞におけるシグナル因子活性の検討。野生型マウスの耳下腺を摘出し細胞単離処理を行い、腺房細胞の培養を行う。耳下腺単離細胞に候補に挙がったタンパク質を作用させ、そのタンパク質がどのようなシグナルとなるのかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、平成27年度に予定していた研究が全て終了しなかったためである。現在までの進行状況に記入した通り、抗Ki67抗体の免疫組織染色の結果の評価法について小さくなった耳下腺組織において、その評価法を再検討する必要があり細胞数のカウントに時間を要した。この問題については当初に予定されていなかった。従って、それらの解決に時間がかかってしまい、マイクロアレイ解析を実行する予定が遅れて計画通りに実験が進まなかったので次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は計画通りに実行が遅れてしまったマイクロアレイの研究(実験動物、マイクロクリップ、マイクロアレイスライド、プラスチック製品)に使用する。
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