頭頚部癌の治療のための放射線治療で照射野に唾液を分泌する唾液腺が存在すると、放射線照射により唾液腺が傷害を受け、唾液分泌量が低下する。大唾液腺は左右に1対ずつ存在し、それぞれが独立したものである。しかし、傷害が片側のみの場合は非傷害側の唾液腺が傷害側の低下した分泌機能を補うという報告がある。申請者はこの現象に注目し、非傷害側の唾液腺で唾液分泌量を増加させる因子を同定することで唾液腺分泌機能亢進メカニズムを解明し、分泌機能が低下した唾液腺の回復を目指したい。 本年度は平成28年度の研究実績で報告した内容に加え、非傷害側唾液腺への唾液分泌機能亢進シグナルは唾液腺の幹細胞を増加させるものではないということを唾液腺幹細胞マーカーといわれるcytokeratin 5の発現を検索することで見出したため、第59回歯科基礎医学学術大会で発表した。また、マウスの片側耳下腺排泄導管を結紮し傷害側、非傷害側、コントロールのサンプルからマイクロアレイ解析を行うためのRNA抽出条件の検討を行うことで、昨年度の課題であったアレイ解析を行うために適したサンプルを準備することができた。そのサンプルを用いてアレイ解析を行った。得られた解析データはGeneSpringを使用し解析を進めた。これまでの研究で傷害側と非傷害側の唾液腺間では、なんらかの相互作用があることを予測していることから傷害側ではリガンドが、非傷害側ではそのリガンドに対するレセプターが存在すると考えた。従って、解析ではコントロールと比較して傷害側または非傷害側で2倍以上発現が増加している遺伝子を抽出したところ、傷害側では1040遺伝子、非傷害側では473遺伝子が候補となった。そこからリガンドとレセプターの関係にあるものを更に抽出し、唾液分泌機能亢進因子の候補を得た。
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