末梢感覚神経を刺激すると頭皮上より誘発電位(SEP)が記録される。1947年にDawsonが下肢を刺激して頭皮上からSEPを記録することに成功して以来、多くの研究者によって電気刺激、機械的刺激、レーザー刺激など様々な刺激方法を用いた研究が行われ、その結果、SEPは四肢や体幹では、感覚障害・神経疾患を客観的かつ定量的に評価する臨床検査法として確立されるに至っている。 われわれは、ヒトの歯を電気刺激して得られる(三叉神経支配領域)SEPの潜時150~250msecの後期成分に着目して、三叉神経領域の広範囲侵害抑制性調節(Diffuse Noxious Inhibitory Control : DNIC)に関する研究を行ない、この後期成分は大脳皮質での痛みの認知過程を反映することや、痛みの強さと電位が相関することを明らかとした。しかしながら、三叉神経支配領域では、未だSEPを利用した臨床検査法は確立されていない。 そこで今回われわれは、より簡便にSEPの検査を行うことができ、知覚神経障害に対し麻痺の程度を定量化するために、オトガイ皮膚を刺激することでSEPを記録し、臨床応用に向けて研究を行った。H27年度は、脳波記録装置および刺激発生装置の新製を行った。この装置を利用し、健康成人におけるオトガイ皮膚への電気刺激により得られるSEPを記録した。H28年度は、空気の圧縮によって皮膚を触ることなく刺激することができる装置を導入し、Aβ単一刺激によるSEPの記録を試みた。空気の圧縮による刺激は、強度が微弱なため、SEPを十分に得るには加算回数(刺激回数)を多くする必要があり、現在は、この回数を決定する研究を続行中である。 健康成人によるSEPの記録方法が確立次第、三叉神経支配領域の麻痺患者に臨床応用を行っていく予定である。
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