口腔癌の中でも発癌・増殖に関与する上皮増殖因子受容体(Epidermal growth factor receptor: EGFR/ErbB1)は、チロシンキナーゼ型受容体のひとつであり、構造上の類似性からEGFRファミリーとよばれるErbB1(EGFR)、ErbB2、ErbB3、ErbB4の4つの受容体が存在する。EGFRは癌細胞の発生・増殖・転移にも関与するとされており、口腔癌においても同抗体薬が臨床応用されるに至り、放射線療法や他の抗癌剤との併用効果等が報告されている。しかしながら、口腔癌組織におけるEGFRファミリーの発現様式や、その臨床データとの相関性については不明な点が多い。 今年度は、口腔扁平上皮癌原発組織におけるEGFRファミリーの発現量を、定量的PCR法および免疫組織化学染色を用いて正常組織における発現量と比較した。また、各種臨床データとEGFRファミリーの発現量との相関性についても検討した。本研究の結果より口腔扁平上皮癌原発組織におけるErbB1の有意な高発現を認めた。臨床データとの相関性において、リンパ節転移陽性群ではErbB4の有意な高発現を認めた。ErbB4はEGFRファミリーとヘテロ二量体形成し癌の浸潤や増殖に関与すると報告されているが、EGFRファミリーとの共過剰発現の様式については明確にされていない。さらにリンパ節転移陽性群ではErbB2とErbB4およびErbB3とErbB4間において有意な相関を認め、免疫組織化学染色におけるEGFRファミリーの蛋白発現を確認したところ、mRNAレベルでの発現と相関する結果を得た。また、リンパ節転移陽性群での有意な低生存率が確認されたため、リンパ節転移陽性群で強発現を呈したErbB4は口腔癌の予後予測を直接反映する有用なバイオマーカーとなり得ることが示唆された。
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