我々歯科医師が日常臨床で遭遇する頻度の多い口唇口蓋裂(cleft lip and/or palate; CLP)患者に認められる構音障害をはじめとして、吃音、失語症などの言語障害を有する患者は、日本において数十万人にものぼるとされる。言語障害は、ヒトの社会的存在としてのアイデンティティーに深く影響を及ぼすことから、言語情報の処理プロセスを明らかにすることは病態解明のみならず、急務が求められる新たな治療戦略の確立のために不可欠であり、今後推進すべき重要な研究分野と考えられる。したがって、申請者は『言語情報の処理プロセスを脳科学的に解明する』ことを研究の全体構想として掲げ、「CLP 患者モデルにおける視聴覚音声統合処理プロセスを脳科学的に解明する」ことを本研究の具体的な目的として遂行する。具体的には実験1では健常被験者と口唇に瘢痕のあるCLP 患者を被験者として、その口唇運動をモーションキャプチャーシステムを応用し4次元的に解析し、瘢痕が口唇運動に与える影響を検討する。実験2では 健常被験者を対象とし、CLP 患者の提供する口唇運動という視覚情報と、異常構音という聴覚情報の視聴覚音声情報統合プロセスを脳科学的に検討する。実験3では健常被験者を対象として、実験2の視聴覚音声情報統合プロセスに、被験者の認知的要因が与える影響について脳科学的に検討する計画した。本年度は申請者の所属する施設ではCLP患者より多く来院する顎変形症患者を対象として実験1を継続して行った。また、CLPを合併することや特異的顔貌を呈するとされている先天異常疾患に関する報告を国内および国際学会で発表し、また国際雑誌に掲載された。
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