昨年までの分析から、菌体表層にコラーゲン結合タンパク(Cnmタンパク) および高分子タンパク抗原(PAタンパク)の両方を発現するStreptococcus mutans 株では、不飽和脂肪酸の1つであるオレイン酸が肝臓培養細胞にある程度蓄積した状態では、他のS. mutans菌株よりも有意に高い付着率を示すことが明らかとなった。本年度は、これら両方の菌体表層タンパクの発現非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病状悪化に重要な因子となり得るかについて追究を行なった。まず、コラーゲン結合タンパクもしくは PA タンパクが欠失した菌株に対して、再度欠失したタンパクを挿入した相補株を作製した。さらに Cnm および PA タンパクの両方を欠失させた変異株を作製した。その後、NASH モデルマウスの頸静脈にこれら相補株および欠失株を投与したところ、相補株投与群においては NASH の増悪化が引き起こされた。一方で、欠失株を投与したしても、NASH の病状は引き起こされなかった。 これらの結果から、血液中に侵入した S. mutans 株が菌体表層に発現している Cnm および PA タンパクは、NASH の症状の増悪化に関連している可能性が示唆された。今後は、Cnm および PA タンパクの両方を発現するS. mutans株が引き起こす NASH病状増悪化のメカニズムの詳細を検討していく必要性があると考えている。
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