本研究の目的は、歯牙移動時におけるTRPチャネルを介した疼痛メカニズムの解明である。当初、機械的刺激受容体であるTRPV2チャネルを介した痛み伝達経路をマウスを用いてIn vivoにてアゴニストおよびアンタゴニストを投与し解析する予定であった。しかし、疼痛マーカーであるc-fosの免疫染色像を統計解析したところ、統計的有意差を検出することが困難であった。マウスの延髄が著しく小さく、ばらつきが大きくなったことが原因と考えられた。そのため、すでに三叉神経脊髄路核尾側亜核二次ニューロンにてc-fos染色の陽性領域が判明しているラットを用いて実験を行うこととした。まず、われわれの実験的歯牙移動モデルラットを用いて、同様の部位にc-fos発現が認められるかを免疫染色法にて確認し、陽性細胞領域の確認のためクリューバーバレラ染色を行った。その後、歯牙移動後12時間、1日、2日、3日、5日、1週間と時間軸に沿って延髄でのc-fos染色を確認したところ、12時間~1日においてc-fos陽性細胞数の増加を認めた。また、マウスと同様にラット歯根膜においてもTRPV2チャネルが存在することを免疫蛍光染色で確認した。そこで、TRPV2のアンタゴニストであるトラニラストを用いて実験的歯牙移動モデルラットの疼痛抑制効果を検討した結果、わずかではあるが、トラニラスト使用群におけるc-fos陽性細胞が減少したことを確認した。これらのことから、歯牙移動における疼痛発現にTRPV2チャネルを介した痛み刺激伝達経路の関与が示唆された。
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