研究課題/領域番号 |
15K20591
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
高島 由紀子 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (30589768)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Streptococcus mutans / グルカン結合タンパク / バイオインフォマティクス / 齲蝕 |
研究実績の概要 |
齲蝕の主要な病原細菌である Streptococcus mutans の菌体表層には、グルカン結合タンパク C (GbpC) が存在し、齲蝕原性との強く関連していることが報告されている。我々はこれまでに、バイオインフォマティクスの手法を用いて GbpC のアミノ酸配列から推定される3次構造を構築することにより、グルカン結合の機能ドメインを決定した。本研究の目的は、S. mutans 以外のバイオフィルム構成細菌において、同様にグルカンなどの高分子タンパクが結合する領域について検討を行い、結合ドメインを決定することにより、口腔バイオフィルム形成の詳細なメカニズムを明らかにすることである。さらに、決定された結合ドメインへの分子の結合を阻害する抗ペプチド抗体を作製することにより、 口腔細菌の分子への結合能を低下させることによる齲蝕抑制物質の開発に応用したいと考えている。 はじめに、バイオフィルム構成細菌において、唾液タンパクをはじめとする高分子タンパクがGbpCに結合する領域を検討した。GbpCをコードする遺伝子gbpCにおいて推定された結合ドメインのアミノ酸排列によりペプチドを合成し、それらと唾液タンパクとの結合能を調べるためにプルダウンアッセイを行ったところ、リゾチームに結合能が認められた。また、抗ペプチド抗体をウサギを用いて作製し、バイオフィルム構成細菌が口腔内でバイオフィルム形成する際の抗ペプチド抗体の阻害作用を検討した。培養菌体に上記で得られた抗体を加え、チャンバースライド内にてバイオフィルムを形成させ、共焦点走査型レーザー顕微鏡にて観察した。形成されたバイオフィルムの密度と厚さを ImageJ (Version 10.2) を用いて数値化し比較検討を行ったところ、抗体が存在する場合は、存在しない場合と比較して密度は約52%、厚さは約34%有意に減少した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究は順調に進んでいる。 口腔内に存在する高分子の唾液タンパクであるリゾチームと、特定された結合ドメインをコードするペプチドの結合を測定するためにプルダウンアッセイを行い、抽出物をSDS-PAGEで泳動し、ウェスタンブロッテング法によりペプチドとリゾチームとの結合が確認できた。また、作製されたペプチドをウサギに免疫し、得られた血清もELISA法を用いて抗体価の確認ができた。さらにその抗体を用いてバイオフィルム構成細菌のバイオフィルム形成時の阻害作用を共焦点走査型レーザー顕微鏡にて撮影し分析したところ、バイオフィルムの高さおよび密度が共に、抗体を添加しなかった場合と比較して明らかに減少したため、バイオフィルム形成時において抗体が阻害していることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、このペプチドを用いてさらに他の口腔内の高分子タンパクが同様の結合領域を有しているかどうかを検討していく。また、作製された抗ペプチド抗体のバイオフィルム形成への影響を観察するため、S. mutans 以外の菌の高分子タンパクへの結合の阻害効果を調べる。さらにこれらの結合ドメインとバイオフィルム構成細菌の相互作用を検討する。これらのことから、S. mutans を含む結合ドメインを持つバイオフィルム構成細菌のバイオフィルム形成における役割を解析する予定である。このように、プラークを構成する際に初期付着となる S. mutans の付着を妨げ、また、プラークを増幅させる細菌への阻害作用が確認できれば、非常に有用な齲蝕抑制となることが示唆される。
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