研究実績の概要 |
MSX1 は上皮間葉相互作用による器官形成に重要な因子である。本研究では、MSX1の骨芽細胞/象牙芽細胞分化における役割を解析し、歯髄幹細胞におけるMSX1 の分化制御メカニズムを解明することを目的としている。 siRNA を用いてMSX1 をノックダウンし、骨芽細胞/象牙芽細胞分化誘導培地で培養したところ、MSX1 ノックダウン細胞では石灰化が抑制され、アルカリフォスファターゼ活性、骨芽細胞/象牙芽細胞分化関連遺伝子の発現が低下していた。従って、MSX1 が歯髄幹細胞に高発現し、骨芽細胞/象牙芽細胞分化に必須の因子であることが明らかになった。また、MSX1の下流に位置する遺伝子群を特定するために、MSX1ノックダウンにより発現が影響される遺伝子をDNAマイクロアレイにより網羅的に解析した。骨分化誘導条件下において、MSX1ノックダウンは接着斑形成、軟骨内骨化、マトリックスメタロプロテアーゼ等に関連する多くの遺伝子発現を低下させ、一方、コレステロール合成に関連する多くの遺伝子の発現を増加させた。これらのコレステロール合成関連遺伝子の内、HMGCS1, HMGCR, FDPS, CYP51A1, DHCR7の発現がMSX1ノックダウンで増加することが定量PCRにより確認された。また、コレステロール合成において中心的役割を担う転写因子SREBP2の発現もMSX1ノックダウンにより増加した。以前よりコレステロール合成系の阻害が象牙芽細胞/骨芽細胞の分化を促進することが知られていたが、骨関連転写因子との関連は不明であった。今回の結果は、MSX1がコレステロール合成系全体を転写レベルで抑制することを示した。そして、MSX1による象牙芽細胞/骨芽細胞分化誘導の制御には、コレステロール代謝が関わっていることが示唆された。
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