研究課題
本研究の目的は、唾液分泌を促進する機序を認知機能の賦活化と脳腸相関の観点から解明することである。本年度は、内臓感覚の賦活化が唾液分泌や嚥下反射を含む顎口腔機能に与える影響とその機序を明らかにすることを目的とした。本課題では顎口腔機能に対する内臓感覚を脳に伝達すると考えられる迷走神経に着目し、内臓不快物質である塩化リチウムを腹腔内投与し、迷走神経求心路の活動を記録した。次に、迷走神経の電気刺激が唾液分泌や嚥下様運動に与える影響をラットを用いて検証した。本年度の結果は3点に要約された。1)内臓不快物質である塩化リチウムの腹腔内投与により、頸部において剖出した左側迷走神経求心路の発火頻度が有意に増加した。2)次に、頸部において左側迷走神経の切断を行い、その中枢端を電気刺激した結果、刺激頻度に応じて唾液分泌が有意に増加することとともに、嚥下様運動の回数が有意に増加することが示された。3)筋弛緩薬である臭化ベクロニウムの投与により不動化を行い、2)と同様の迷走神経の電気刺激を行った結果、迷走神経の電気刺激により誘発されていた嚥下様運動は消失した。その一方で、唾液分泌量は不動化前と同様の分泌量が観察された。以上の結果から、内臓感覚は迷走神経求心路を賦活化すること、迷走神経刺激により誘発される唾液分泌と嚥下様運動は、それぞれ異なる神経経路で誘発されることが示唆された。本成果は本年度の日本生理学会で報告するとともに、英文誌に投稿し受理された。
2: おおむね順調に進展している
概要で述べた1)において、内臓不快物質である塩化リチウムの腹腔内投与は迷走神経求心路の活動頻度を有意に増加したことから、内臓感覚と迷走神経の活動頻度の関連が示唆された。概要で述べた2)において、左側迷走神経の刺激頻度に応じて唾液分泌および嚥下様運動が有意に増加したことから、電気刺激により迷走神経求心路が賦活化されたと考えられた。概要で述べた3)において、不動化実験において迷走神経の電気刺激で観察された嚥下様運動が消失したが、唾液分泌量は不動化前と同様に分泌されたことから、迷走神経求心路の刺激は、異なる神経経路を介して唾液分泌と嚥下を誘発したと考えられた。以上から、内臓感覚の賦活化が唾液や嚥下を含む顎口腔機能に一定の影響を与えることが示唆された。
迷走神経の電気刺激が大脳皮質の局所脳波に与える影響を検証する計画である。特に、認知機能の賦活化に関与すると考えられる前頭前野の局所脳波を観察することで、迷走神経の賦活化が認知機能に与える影響を検討する計画である。
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The American Journal of Physiology Regulatory, Integrative and Comparative Physiology
巻: 311 ページ: R964 ~ R970
10.1152/ajpregu.00292.2016
http://researchmap.jp/hu1980/?lang=japanese
http://ris.kuas.kagoshima-u.ac.jp/html/100005420_ja.html