本研究において、平成28年度には、齲蝕感受性の高い患児において、酸性環境下にて乳歯エナメル質から多くのアルミニウムが溶出することを発見した(Koji Watanabe et al. Open Journal of Stomatology 2016; 6: 54-63)。また、フッ素徐放性歯科材料の再石灰化療法における有効性をQLF-Dを応用して確認した(Koji Watanabe et al. Open Journal of Stomatology 2016; 6: 127-134)。初期脱灰病変に対して再石灰化療法を行う際に、その患児の齲蝕感受性が高いか低いかということは再石灰化療法の成否を左右する大きな要因のひとつであり、この要因によって再石灰化療法の内容が左右されることもある。前者の論文は初期脱灰病変に対するガイドラインを作成する際に患児の齲蝕感受性を評価するための指標のひとつとして乳歯エナメル質からのアルミニウム溶出量があげられることを明らかとした。また、後者の論文は、初期脱灰病変への再石灰化療法を行ううえで有用な、フッ素徐放性の歯科材料が初期脱灰病変に与える効果について有用な情報を提供してくれた。平成27年度には、患児の養育環境と齲蝕罹患状況について基本的な情報を蓄積しつつ、歯垢付着状況の評価および初期脱灰病変の評価において、QLF-Dと従来の手法の間に違いが生じないことを確認し、学会にて発表した(第53回日本小児歯科学会大会、虐待防止・歯科研究会、第62回日本小児保健協会学術集会、第8回日本健康医療学会、第8回日本健康医療学会)。本研究は、膨大なデータの蓄積が必要なため、歯科健診における初期脱灰病変のガイドライン作成にむけて、引き続き患児の生活習慣、口腔内環境等についての情報収集を行っていく予定である。
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