研究課題/領域番号 |
15K20610
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
伊藤 龍朗 日本大学, 松戸歯学部, 助教 (60635126)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 小児歯科学 / バイオフィルム / SspBペプチド |
研究実績の概要 |
小児う蝕の減少および軽症化傾向の一方で、歯周疾患における低年齢での増加傾向が近年問題視されている。歯周疾患をはじめとする口腔内感染症は、口腔細菌により形成され た生態系:バイオフィルム(B.F.)に起因しており、ペリクルや口腔粘膜へ細菌が付着す ることから始まる。また、口腔内B.F.は薬剤耐性遺伝子のリザーバーであり、従来の殺菌的・静菌的な制御法とは異なる新規B.F.制御法の確立が望まれている。そこで申請者は、 付着の阻害という新たなアプローチの着想に至った。 本研究ではSspB相同ペプチドを利用し、SspB-P. gingivalis-ヒト唾液の三者間における相互作用をin vitroにて検証し、成果をまとめた。 (1) ヒト唾液(濾過滅菌済み)を被覆したELISAプレートに、ビオチン化SspB相同ペプチド(A4K-A11K)を処理した。ペプチドの濃度は、12.5 μg/ml、25 μg/ml、50 μg/ml、100 μg/mlの四段階で検討した。アルカリフォスファターゼによる発色反応をプレートリーダー (405 nm) にて解析する事で、SspB相同ペプチドがヒト唾液と反応する至適濃度を選別した。 (2) 口腔細菌叢のバランスの変化は日和見感染を引き起こしかねないため、SspB相同ペプチドによるP. gingivalisのMfa1線毛への特異的結合(SspB-Mfa1相互作用)を検証する必要がある。よって、P. gingivalis ATCC33277株、P. gingivalis W83株、S. gordonii DL1株、S. mutans MT8148株およびA. naeslundii X600株を供試菌として用いた。炭酸バッファーに懸濁した供試菌液(OD600=0.4)をELISAプレートに分注し、SspB相同ペプチド(A4K-A11K)との反応を解析した。 (3) ペプチドに殺菌作用がない事を検証するため、SspB相同ペプチド、0.04%クロルヘキシジン、未処理、各条件下での細菌の生育を濁度計にて計測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度ではELISA法を用いて、SspB相同ペプチドがヒト唾液と反応する至適濃度を選別した。次いでSspB相同ペプチドによるP. gingivalisのMfa1線毛への特異的結合(SspB-Mfa1相互作用)を検証した。その成果をまとめ、第53回日本小児歯科学会大会、IAPD 2015 Conferenceにて発表した。更に、本研究を応用することでP. gingivalis定着メカニズム解明の一助となるペプチド結合アッセイを確立し、学術誌 Open Journal of Stomatology (2015, 5, 259-267) にてその成果を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
P. gingivalis (Pg) のB.F.形成量はS. gordonii (Sg) 存在下で顕著に増加することから、SspB-Pg間の相互作用がキーになると考えられている。 ヒト唾液被覆プレート上にSgのB.F.を形成し、SspB相同ペプチドとプレインキュベートしたPgを、SgのB.F.上に加え培養する。二菌種混合B.F.からDNAを抽出し、Pgの細胞数を定量する。ペプチド未処理時のPgと比較し、B.F.抑制効果を評価する。 更にNOD/SCID.e2f1-/-マウスを用いることで、SspB相同ペプチドのB.F.抑制効果をin vivoにて評価する。 (1) NOD/SCID.e2f1-/-マウスのメス(12週齢)を、①Sg感染群、②Pg感染群、③偽感染群、④Sg+Pg感染群、⑤Sg+SspB相同ペプチド+Pg感染群の5群に分ける。抗菌剤(ST合剤)を飲料水に添加し、10日間抗菌処理を行う。ヒト唾液をマウス歯面に処理した後、①群にはSg (1×109 CFU/ ml) 100 μlを、②群にはPg (1×107 CFU/ ml) 100 μlを経口投与により感染させる。③群はPBSを経口投与する。Sgの定着確認後、④群にPg (1×107 CFU/ ml) 100 μl接種する。⑤群には、SspB相同ペプチド経口投与後、Pgを接種する。感染から7週後に顎骨標本を作製、上顎頬側の歯槽骨頂~セメント-エナメル境間を計測し、5群間の骨吸収の程度を比較する。(2) 超音波処理により顎骨から菌を回収し定量することで、5群間の菌量を比較する。 2カ年で得られた結果を総括し、成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究と関連が深く、同時進行中であったP. gingivalis定着メカニズム解明用のペプチド結合アッセイを確立したため、学会および学術論文にて成果発表を行った。そのため当初予定していたB.F.細菌数の定量を、次年度に行うこととした。定量PCR用の試薬購入には至らなかったため次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に延期したS. gordonii-P. gingivalis二菌種混合B.F.の細菌数定量を行うため、定量PCR用の試薬購入に充てる。
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