研究実績の概要 |
本年度は,先ず昨年の後半の結果について再現性の確認を行った。即ち,株化ヒト歯肉線維芽細胞(HGF)培養系にリコンビナントS100A8,S100A9およびカルプロテクチンを添加し、炎症関連因子の発現のシグナル経路を検討した。HGFでは、TLR4のmRNA発現が認められ、TLR4特異的阻害剤TAK242により、カルプロテクチン誘導によるMCP-1とIL-6の産生増加が優位に抑制された。次に、TLR4遺伝子のノックダウンは通法に従いTLR4 siRNAを歯肉線維芽細胞に遺伝子導入し、TLR4遺伝子の抑制効果はRT-PCR法を用いて評価した。TLR4 siRNAを遺伝子導入した細胞では、陰性対照と比較して、MCP-1およびIL-6の産生が有意に抑制された。また、カルプロテクチンによるp38MAPK, JNK, ERKおよびIkBαのリン酸化が抑制された。 RAGE発現におけるカルプロテクチンによる影響の結果を踏まえてカルプロテクチンで前処理された細胞に対して調整したAGEsを添加した後の細胞反応を調べる予定であったが、HGFではRAGE mRNAの発現が低レベルであったため、代替として高血糖状態を想定した高グルコース環境下(25mM)で培養したHGFにカルプロテクチンを作用させ、炎症関連因子の発現に及ぼす影響について検討を行った。その結果HGF のMMP-3,proMMP-1の産生が対照群に比べ有意に増加した。また、高グルコース環境下で培養したHGFにIL-6で刺激を行った結果MMP-1の産生が有意に増加された。 即ち、高血糖状態でのHGFでは、カルプロテクチンによるIL-6産生増加、自己分泌によるMMP-1の産生促進が糖尿病関連歯周炎の炎症増悪の過程の一端であることが示された。
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