口腔内バイオフィルム中の細菌は、抗菌物質や貪食細胞、免疫グロブリンに対して抵抗性を示して局所に長期に留まり、感染の慢性化、難治化を招くと考えられている。特にPorphyromonas gingivalis (Pg)、Aggregatibacter actinomycetemcomitans (Aa)は代表的な歯周病細菌であり、最近は冠性動脈心疾患や脳血管性疾患との関わりにおいて注目されている。我々は、Pg ATCC33277株が培養上清中に分泌したKgpタンパクの分解活性がAa ATCC29523株のバイオフィルムの付着を阻害することを明らかにした。また一方で、Aaのバイオフィルムの凝集に対してはジンジパイン以外の酵素が阻害することを明らかにした。つまり、歯周病患者の8割以上に生息している主要な歯周病細菌であるPgの分泌タンパクには、強い病原性を持つAaの形成したバイオフィルムを剥離する働きがあることを見出した。本研究では、Pgにおいてこのバイオフィルム剥離を担うタンパクを同定し、該当する遺伝子欠損株やリコンビナントタンパクを作製して剥離のメカニズムを明らかにすると同時に、Aaの被阻害因子について解明していくことを目的とした。 Pgの培養上清をクロマトグラフィにかけ、Aa凝集阻害を確認する実験を行ったが、フラクションごとの剥離効果に差は認められなかった。また、Aaの被剥離因子の解明について、二次元電気泳動において処理後のAa菌体は多くの膜タンパクが分解されていることが分かった。今後PgとAaに限らず多くの菌体間インタラクションについて解明していく必要があると思われる。
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