研究課題/領域番号 |
15K20634
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
土谷 忍 東北大学, 大学病院, 助教 (90547267)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 咀嚼 / 食習慣 / 糖代謝機構 / IL-6 |
研究実績の概要 |
近年、Network Medicineの概念から糖尿病に代表される代謝性疾患の治療法がさらに包括的になっている。咀嚼機能の低下と糖尿病や肥満などの代謝性疾患との関連は示唆されているが、咀嚼機能と代謝性疾患を繋ぐ明確なエビデンスは認められない。 軟食は一般食よりも栄養吸収が良いため、急速な血糖値の増減が起こり、生体における最大の糖貯蔵器官である肝臓への負荷が大きいものと推察される、その慢性的摂取が肝臓の糖代謝機構の発達過程に影響する可能性も考えられる。 粉末食(以下、Soft群)あるいは固形食(Hard群)の摂取前後のマウス血糖値の動態について比較検討を行った。30分間の摂取量については、両群間に差は認めなかったものの、soft群の血糖値に関して、食後の上昇と絶食後の早期の低下が確認された。これらの結果から、粉末食では吸収・消化が迅速に行われるため、摂食前後の血糖値の動態が大きく、それらを制御するための糖代謝調節機構の負担は大きくなるものと推察される。 食餌を介した肝臓への慢性的な負荷によって生じる、肝臓の糖代謝機構への影響を解析するために、Balb/cマウスの長期飼育を行った。Soft群では有意に高い平常血糖値および低い血中インスリン濃度が確認され、マウス血清中のアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチコステロン量の測定では、Soft群で有意に高い傾向が認められた。これらのマウスを用いて、糖代謝機構に関する比較検討を行ったが、血糖値の動態については有意な差は認めなかったが、糖負荷時の血中インスリン濃度については有意な上昇が認められた。また、血清中カテコールアミンの上昇による心臓血管機能への影響を解析すると、心拍数に差は無いが、拡張期血圧および平均動脈圧がSoft群では有意に高いことが明らかになった。 以上から、粉末食の長期飼育によって、マウスに高血糖症が生じ、全身疾患の兆候が認められるようなることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インスリン抵抗性に伴う糖尿病や肥満など、代謝性障害による生活習慣病の増加が世界的に問題となっている。原因として、成長期における不規則な食生活の問題が示唆されており、社会的に「食育」への関心が高まってきている。小腸から吸収された栄養分は門脈系を解して肝臓に集められるため、肝臓を中心とした代謝機構は食生活の質に直接的な影響を受ける。本研究では、栄養分の消化・吸収が簡易である粉末食を利用して、食生活が直接的に肝臓の糖代謝機構の発達過程に影響することを、糖代謝、血糖値調節因子の血清レベル、および肝臓における小胞体ストレスを指標として明らかとした。すなわち、食生活の質的低下が個体の健康に大きく影響を及ぼす環境因子であることが明らかとされ、特に成長発育期における「食育」の役割をさらに明確に示したものであるといえる。また、粉末食での長期飼育によって、高血糖症が生じ、全身疾患の兆候が現れることが確認された。本研究では、食習慣が肝機能の発達を介して個体の成長発育の重要な環境因子であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
軟性食餌を与えて、長期飼育を行ったBalb/cマウスから採取した肝臓組織を使用する。 ①肝臓組織内のグリコーゲンおよび脂質の定量、②肝臓組織の組織学的検討、③IL-6シグナリングの検討:軟性食餌により、肝臓組織におけるIL-6シグナリング関連分子の発現が低下していることをウェスタンブロッティングおよびRT-PCRにより明らかとする、④免疫組織化学染色法による検討:抗p-STAT3抗体を用いて、軟性食餌飼育群の肝臓における発現の低下を示す。肝臓組織内のp-STAT3核陽性細胞数をカウントし、定量的な解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた組織切片の作成および組織学的検討を次年度に延期したことによって生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
延期した組織切片作成および組織学的検討を行う際に必要な経費として、平成28年度請求額と合わせて使用する予定である。
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