研究実績の概要 |
近年、Network Medicineの概念から糖尿病に代表される代謝性疾患の治療法が更に包括的なものとなっている.咀嚼機能の低下と糖尿病や肥満などの代謝性疾患との関連は示唆されてはいるが,咀嚼機能と代謝性疾患を繋ぐ明らかなエビデンスは認められない.本研究では,咀嚼機能の低下によって誘引された軟食傾向といった食生活の質的低下が,肝臓を中心とした糖代謝機構の恒常性を障害し,咀嚼が肝臓を刺激するメカニズムを明らかとする. 粉末食あるいは固形食の摂取前後にマウスの血糖値を測定し比較検討を行った.30分間の食餌の摂取量には両群間で差はなかったが,粉末食群では食後の血糖値の上昇と絶食後早期に血糖値の低下が認められた.このことから,粉末食では糖の吸収や消化が速やかに起こり,食餌摂取前後の血糖値の動態が大きくなるので,それらを制御するために糖代謝機構の負担が大きくなると考えられる. また長期的な影響を検討するために,マウスに粉末食あるいは固形食を与えて4か月飼育し、インスリン等の血糖値の調節機構の変化について,ELISAやHPCLにより観察した. 粉末食群では平常時のインスリン濃度の低下および平常時血糖値の上昇が認められた.血清中アドレナリン,ノルアドレナリン,コルチコステロン量の測定では, 粉末食群で高い傾向が認められた.血糖値の動態については,両群にて有意な差はなかったが,糖負荷時に血中インスリン濃度が有意に増加した.血清中カテコールアミン濃度の上昇による心臓血管機能への影響を調べたところ,両群の心拍数には差がなかったが, 粉末食群では拡張期血圧と平均動脈圧が有意に高いことが明らかとなった.
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