南極越冬隊員30名を対象に、1年間の南極滞在中に計4回、口腔保健行動や自覚症状に関する質問票調査を行った。その結果、南極観測隊員は南極滞在中に口の健康の自己評価が低下し、歯みがき回数やデンタルフロスの使用、舌清掃、歯や歯ぐきをチェックする習慣などの保健行動が悪化する傾向がみられた。 これまでの研究でも長期間閉鎖環境に滞在すると口腔清掃のモチベーションが低下し、口腔清掃状態が悪化することが報告されており、う蝕や歯周病等の口腔疾患の発生が危惧される。今後、隊員の南極観測基地(昭和基地)滞在中の口腔保健状態や口腔保健行動の変化についても経時的に調査を行い、それに基づいて予防対策を実施し、隊員の口腔保健状態の向上に努めることが重要と考えられた。 また、本研究では国立極地研究所および海上自衛隊歯科と連携して、南極越冬隊員の歯科口腔保健に関する課題を明らかにし、その対策について検討した。そして、解決できる問題に関してはすぐに対応し、南極における遠隔歯科医療・健康管理システムの構築に取り組んだ。具体的には、以下のことを実施した。①南極観測隊候補者の派遣前の歯科健診・事後措置の改善、歯科保健指導の提供、②南極観測隊同行医師の歯科研修プログラムの充実、③昭和基地にある歯科医療機器や歯科材料の管理システムの導入、④大学と国立極地研究所(昭和基地)との歯科情報の共有(隊員の口腔保健状況および基地にある歯科材料の情報など)、⑤口腔内カメラおよびテレビ会議システムの導入。その結果、南極越冬隊員に充填物の脱落等の歯科の問題が発生した場合には、南極にいる医師が大学の専門診療科の歯科医師に口腔内写真やレントゲン写真を送って相談できる体制ができた。また、口腔内カメラやテレビ会議システムを利用して、大学の各診療科の歯科医師が助言を行い、それに基づいて、南極の医師が適切に対応するシステムが構築された。
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