高齢者の嚥下障害に関わるサルコペニアは廃用により修飾されるため、嚥下関連器官を動かす頻度、つまり嚥下頻度は嚥下機能の廃用に影響すると考えられる。しかしながら、高齢者や嚥下障害症例の日常の嚥下頻度は明らかではない。そこで本年度も引き続き、嚥下障害や経口摂取の有無などの条件での嚥下頻度を測定し、各症例における日常の嚥下頻度の指標を確立することを目的とした研究を行った。 療養病床に入院中の要介護高齢者を対象に、必要栄養量を全量経口にて摂取している者(経口群:20名、平均年齢76.1±7.8歳)と全量経管栄養にて摂取している者(経管群:15名、平均年齢77.2±6.9歳)を被験者として安静時1時間の嚥下回数を測定し、2群間で比較した。測定の結果、各群の1時間あたりの嚥下頻度は、経口群:平均20.0±12.4回、中央値17回、経管群:8.1±6.9回、中央値5回となり、経管群は経口群と比較し有意に嚥下頻度が少ないことが明らかとなった(p<0.01)。さらに経口群において、直近3ヵ月に肺炎の既往がない症例(肺炎なし群:12名)と既往がある症例(肺炎あり群:6名)とで1時間あたりに嚥下頻度を比較したところ、肺炎なし群:平均24.2±12.1回、中央値22回、肺炎あり群:11.8±9.0回、中央値9回となり、肺炎あり群は肺炎なし群と比較し有意に嚥下頻度が少ないことが明らかとなった(p<0.05)。 この結果は、経口摂取の有無が日常の嚥下頻度に影響を与えていること、嚥下機能の低下した症例では嚥下頻度が低下している可能性があることをそれぞれ示しており、定期的に嚥下運動を生じさせる行為、すなわち経口摂取や嚥下訓練が嚥下機能の維持に重要であることを示唆するものであると考えられた。 今後は、引き続き経口摂取が嚥下頻度に与える影響を、禁食症例への嚥下訓練(直接訓練)での介入にて検討する予定にしている。
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