今年度は歯科心身症の代表的な疾患の1つである口腔異常感症と非定型歯痛について研究を行った。 口腔異常感症とは訴えに相応する器質的異常に乏しく精神疾患を伴わないにも関わらず、口腔内に違和感やしびれなどの異常感を訴える疾患である。口腔内や体表に出現する異常感に対してバルプロ酸などの抗てんかん薬が奏効する症例は国内外で報告があった。しかしドパミン・システムスタビライザー(DSS:Dopamine System Stabilizer)と呼ばれ、ドパミンD2受容体パーシャルアゴニスト作用を有する抗精神病薬であるアリピプラゾールが異常感に有効であった報告は少ない。DSSの効能には統合失調症、双極性障害、うつ病、小児期自閉スペクトラム症の易刺激性など幅広い疾患に効果が認められる。この薬剤の作用には、DSSがアンタゴニストとしてドパミン阻害作用を示す一方で、アゴニストとしての内活性作用をあわせ持つ特性ーー脳内でドパミンが過剰に放出されている時には阻害薬として抑制的に働き、逆にドパミンが不足している時はドパミン作動薬として活性化する方向で作用するーーがあり、この作用が口腔内の異常感にも効果を示すのではないかという知見が得られた。 これらの知見は従来の考え方である、口腔内の異常感に対してはノルアドレナリンやGABA受容体に作用する薬剤が有効であるというものから、ドパミンに作用する薬剤も有効であるという新たな知見をもたらす可能性となる。また、その成果として論文を発表した。
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