研究課題
易感染性宿主は、健常者では感染が成立しない弱毒病原体に感染しやすい。特に口腔内は常に細菌に曝露するため、口腔細菌由来の重篤な感染症(誤嚥性肺炎、菌血・敗血症など)を発症することが多い。しかし周術期、特に抗癌治療後の易感染性宿主は、重い口腔粘膜炎などに悩まされ、十分な口腔ケアを行うことは難しい。このような易感染性宿主の口腔・全身状態への配慮、すなわち“スペシャルニ-ズ”に応える歯科独自の周術期口腔ケア方法が必要である。具体的には、口腔細菌感染を制御する一方で①正常細胞へのストレスをできるだけ与えないことおよび②癌の“再発”と“浸潤・転移”を促進しないことが挙げられる。これまでの研究で、3室ダブルイン型電解装置で生成した次亜塩素酸電解水は、口腔細菌に対する殺菌作用を示し、他の電解方法で生成した次亜塩素酸電解水および3%過酸化水素水と比較してKB細胞に対する細胞毒性が低いことを見出した。したがって、本研究では、次亜塩素酸電解水の周術期における口腔ケアへの応用に向けた基盤となる研究を行う。今年度は、主に癌の浸潤・転移過程に関する接着分子(細胞間接着分子および細胞外基質間接着分子)および転移部位での癌細胞の接着に関する分子に着目し、それらの発現を比較・検証した。具体的には、3室ダブルイン型電解装置で生成した次亜塩素酸電解水を含む2種類の次亜塩素酸電解水および3%過酸化水素水のKB細胞の細胞間接着分子の1つであるE-cadherinに及ぼす影響を免疫組織化学染色方法を用いて比較検証した。その結果、3室ダブルイン型電解装置で生成した群では発現が最も多く見られ、細胞間接着分子E-cadherinへの影響が少ないことがわかった。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、次亜塩素酸電解水のKB細胞の細胞間接着分子の一つであるにE-cadherin及ぼす影響に関して、免疫組織化学染色方法を用いて検証した。この系の確立により、KB細胞の他の接着分子(CD44およびCD166など)に対する検証も可能となった。よって、新しい感染制御方法として次亜塩素酸電解水を応用するための必要な基礎デ-タを得るばかりではなく、殺菌因子である酸化ストレスに関する重要な情報も得ることができると考えられ、達成度としてはおおむね順調に進展していると思われる。
次亜塩素酸電解水のKB 細胞の他の接着分子(CD44およびCD166など)に対する酸化ストレスの影響に関して検証する。方法としては、各抗体を用いて免疫組織化学染色方法を行う。さらに定量PCR による遺伝子解析及びウエスタンブロット法によるタンパク解析を用いて分子生物学的に検証をすすめていく予定である。また他の口腔組織由来の様々な細胞(ヒト由来口腔粘膜上皮細胞および歯周靱帯線維芽細胞など)に対しては、細胞毒性について、MTT assayなどを用いて検証していく予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件)
International Journal of Oral and Craniofacial Science
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