妊娠線は主に妊娠に伴う皮膚の引っ張りによってできる痕であるが、同じ引っ張りの程度でも妊娠線ができる場合とできない場合がある。つまり、単純な物理的引っ張り以外にも、妊娠線の成因に与える影響が存在することが示唆される。この理由として我々は、皮膚の慢性炎症、皮膚内部の実際の構造、酸化ストレスなどの差が妊娠線の程度に影響を与えているのではないかと考えた。そこで本研究では、妊娠線組織を含めた皮膚を採取可能な帝王切開痕の皮膚サンプルを用いることによって、物理的引っ張り以外の妊娠線ができる原因を探ることを計画した。 平成27年度にサンプルを12例回収、一般的な組織染色(HE染色)を実施し、平成28年度には皮膚内部のコラーゲン・エラスチン量の定量と、炎症性サイトカインのスキンブロッティングを実施した。平成29年度には帝王切開痕とその周囲の外見と、エコー画像による評価や実際の組織との対応について検討した。しかしその結果、予想に反し、妊娠線の程度と、コラーゲン・エラスチン・エコー強度に有意な関係性を認めなかった。一方、帝王切開痕のエラスチン量がエコー強度と有意に相関することが明らかとなったため、皮膚内部のエラスチンの状態、すなわち皮膚の弾性に影響するパラメータをエコーを用いて評価することが可能であることが示唆された。しかし、今回の対象者に「severe」と判定されるほどの妊娠線を有するものがいなかったため、コラーゲン・エラスチン・エコー強度に反映されるほどの皮膚傷害に至っていなかった可能性があり、本研究の結果のみからは妊娠線に影響を与える皮膚パラメータを見いだすには不十分であることが考えられた。
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