入退院を繰り返している慢性心不全患者を対象に、半構造化面接と活動量測定結果を見ながらの非構造化面接を行い、得られたデータを解釈学的現象学の手法を用いて分析した。 入退院を繰り返す慢性心不全患者の日常生活における活動の調整の体験は、【心不全の身体と生活してきた身体の重なりを作らない】体験であった。何度も心不全の増悪と入院を繰り返す中で、症状の増悪に伴うつらさや生活してきた身体での活動が行えない不自由さを感じつつも、症状が安定しているときには【生活してきた身体の活動でいつづける】ように活動していた。また、心不全の身体としての活動は意識にあがっておらず、症状が増悪することで制限される活動は【心不全の身体によって活動に支障のある生活に投げ込まれる】体験であった。 比較的安定して生活している心不全患者の体験が“不全である心臓を動かす”“通常性を維持する”という志向性を持っていたことと比較すると、本研究の結果は通常の生活をつづけながらも、十全ではない心臓を補いながら通常であることを維持するのではなく、“通常の生活をし続ける”という志向性を持っているといえた。心不全の身体は自分の手元にあるものではなく、医師の手元にあるもののようであった。そのため、心不全の身体による活動と、生活してきた身体での活動は重なるものではなく、あたかも別々のものであるかのように語られていた。 この結果から、入退院を繰り返す心不全患者については、医師をはじめとする医療従事者が、医療の一環として活動の調整が組み込まれるように治療方法を検討するなどの方法で活動の調整を引き受けたり、心不全の身体が再び患者の手元にあるものになるように、活動と様々な症状の変化などを意味づけなおしていくようにかかわることが必要であると考えられた。
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