本研究の目的は、Loss of controlに至る筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)患者への支援を訪問看護師の語りから明らかにすることである。平成29年度は、収集されたインタビュー調査内容を分析した。 ある訪問看護師は、進行し続けるALSの症状をまのあたりにし、あるいは知識として理解する中で、ALSの人々の痛みを深く感じ取り、日常の些細な選択場面にも有限さを意味づけ、先見性をもって本人や家族や関係者にその貴重さを説いていた。しかし、かかわりあう多様な人々それぞれの価値観がすれ違うなかでいたずらに時間が過ぎ、止まることの無い症状の進行に再びALSの人々の痛みをより深く意味づけていた。それゆえ、訪問看護師は実践の不確かさを無視した本人への歩み寄りを避け、だからこそ、外に向かって踏み出された本人の一歩に多くの孤独を乗り越えている尊さを静かな感激とともに受け取り、ふたたび歩みをすすめていた。しかしながら、依然、いたずらに過ぎ去る時間もあるなかで、経験の少ない訪問看護師は、ALSの本人に備わった潜在力に頼るほかない実践のありようにばかり目が向き心労が重なっていた。このときベテランの訪問看護師は、不確かさに目を背けない局面や、本人と別々な世界を歩き続けていることを覚知する局面を容認することで、看護師の不確かな見立てに依拠するのではなく本人にその指示をまかせる実践にこそ為すべき支援を意味づけていた。そして、いたずらに過ぎ去っていた時間は、構築すべきケアチームを本人が吟味する大切な時間へと意味づけされ、足をとめる局面は本人からの応えをじっと待つ積極的な意味づけへと変わっていた。 質的統合法は仮説発想型の分析法である。本研究の結果は、Loss of controlに至るALSの人々への訪問看護師の支援にいくつかの仮説を導いた。今後の仮説検証により、支援の構造を明らかにすることが必要である。
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