研究実績の概要 |
本研究はフィリピン共和国において、自宅分娩の現状及び課題を検討すること、自宅分娩を含めた周産期の保健・医療サービスを改善するために現地ヘルスボランティアを活用した保健システムを構築することである。 これまでの研究成果として、①フィリピンの自宅出産者には産後の健康障害が起こっていること、それには保健サービスの利用状況が関係していることを明らかにしたこと(Yamashita et al, 2017)、②フィリピンの自宅出産者等の女性を支援するための地域ヘルスボランティアの役割を明らかにしたことである(論文執筆中)。これらの成果は、自宅出産を減少させていくという調査地の市政策に反映された。フィリピンにおいて母親は自宅出産の分娩介助者である伝統的産婆とのコミュニケーションを通して安心感を得ることができ、また家族員の人数が多い家庭では保健センターや病院で出産するより都合がよいことが多かった。一方、本研究成果で明らかになったように自宅出産では母親の健康障害が発生する割合が多く、必要な治療を受けることができないという負の側面もあった。当地域では自宅出産を減少させていくという政策が地域の現状と合わせて進んでいくことは時代の変化を考慮すると仕方がないと考えられるが、一方でそのことは文化的側面への配慮を非常に要する。これらのことから、今後も現地の行政と協働して周産期の健康について検討していくことが必要と考えられる。また、今後の研究課題として妊娠期の鉄欠乏性貧血があがった。東南アジア諸国では妊婦の鉄欠乏性貧血が重要な公衆衛生上の課題となっており、フィリピン共和国でも近年の重要な課題の一つとなっている。今後、妊娠期の鉄欠乏性貧血の現状や課題を検討していく。
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