報告者によるこれまでの『自衛―独立ユダヤ週刊新聞』の研究を通じて、ボヘミア王国期の『自衛』(1907-1918)は、パレスチナにおけるユダヤ人国家の建設を計画していたのではなく、ハプスブルク君主国の枠内でのユダヤ人自治を構想していたことが検証されている。『自衛』では、ユダヤ人自治のモデルとして、リヒャルト・ハルマッツの『ドイツ系オーストリアの政治(Deutsch-oesterreichische Politik)』が引用されていた。H29年度は、ハルマッツによる当該著作を中心に、君主国における民族自治構想についての調査を進めた。 ハルマッツは、君主国在住のユダヤ人について、彼らの言語文化的な多様さから、ドイツ人、チェコ人ほかと対等な「国民(Nation)」とは見なしていなかった。『自衛』は、ハルマッツらの構想した「民族連邦制」に依拠しながら、ユダヤ語つまりイディッシュ語に注目することを通じて、チェコ人、ポーランド人、ルテニア人ほかと対等なユダヤ人の政治的権利を主張していた。その成果については、北大文学研究科の学術雑誌『独語独文学研究年報 第44号』に論文として公表されたほか、論文の一部は、北海道ドイツ文学会 第84回研究発表会にて、口頭で報告された。 2018年2月から3月にかけて、報告者はオーストリア国立図書館(ウィーン)にて、『自衛』の過去記事の閲覧、収集作業を実施した。図書館調査のほか、報告者はドイツにおけるユダヤ人新聞のデジタルアーカイヴについての聴き取り調査のため、フランクフルト大学図書館を訪問した。ドイツでは、アーカイヴの管理者ラーヘル・ホイベルガー博士(Dr. Rachel Heuberger)から、プロジェクトの経緯、波及効果、問題点などについて簡単なレクチャーを受けた。継続プロジェクト(18K12383)では、ホイベルガー博士の来日を計画している。
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