研究課題/領域番号 |
15K20825
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
伊藤 佐智子 北海道大学, 環境健康科学研究教育センター, 特任講師 (90580936)
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研究期間 (年度) |
2015-03-01 – 2018-03-31
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キーワード | 環境疫学 / 出生コホート / 胎児期曝露 / 予防医学 / 社会医学 |
研究実績の概要 |
これまでPCB胎児期曝露が児の先天異常や生後の生殖機能を妨げるという報告があり、成人よりも環境化学物質に脆弱とされる胎児への影響検討が注目されてきた。PCBの一部は生体内で酸化を受けた後、大部分がOH-PCBへ代謝され速やかに体外へ排出されるとされてきたが、近年OH-PCBはPCB同様生体内や環境中に蓄積することが報告されている。そのため、これまでPCBの健康影響とされてきたものが本来はOH-PCBの影響である可能性があり、早急に解明が必要である。 本研究は、大規模出生前向きコホートを用いて、母体血中PCB、水酸化PCB(OH-PCB)濃度を測定し、母のPCB代謝関連遺伝子情報(SNPs)に着目して個人の体内代謝能力差を考慮しながら、臍帯血中の性ホルモン濃度との関連を検討し、胎児期OH-PCB曝露がおよぼす次世代への健康影響評価を行う。代謝に関与するSNPsと体内PCB・OH-PCB濃度との関連を検討し、体内でのPCB代謝経路を明らかにする糸口を提供し、これまでPCBがヒトの健康に与えるとされてきた影響が、実際はOH-PCBの影響である可能性についての解明を目的とすることで、OH-PCBの胎児期曝露がおよぼす次世代への健康影響評価によって効果的な環境リスク対策と予防対策への道を切り拓く。 平成15年4月から前向きコホート研究「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ」をすでに立ち上げている(研究代表者:岸玲子)。そのうち、1産科医院で出産を行った母児514組を対象とする。H27年度は、母の妊娠中の保存血液中4-OH-CB107、4-OH-CB146 + 3-OH-CB153、4-OH-CB172、4-OH-CB187の各異性体濃度と、保存臍帯血中性ホルモン濃度のデータがある母児において、各種データの連結を行った。また、母の代謝関連遺伝子多型の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
曝露となる母体血中OH-PCB濃度、アウトカムとなる臍帯血中性ホルモン濃度についてはデータのクリーニングおよびデータ連結を行った。母の代謝関連遺伝子多型の解析(AhR, AhRR, CYP1A1, CYP1A2, CYP1B1,GSTM1, GSTT1, GSTP1、UGT)については、178検体終了し、当初予定していた130検体より多くの解析ができた。
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今後の研究の推進方策 |
PCB・OH-PCB体内濃度とSNPsとの関連を検討およびOH-PCB体内濃度と性ホルモン濃度との関連を検討する。得られたデータを用いて、体内血中PCB、OH-PCB濃度に対する代謝関連SNPsによる影響を解析する。また、胎児期のOH-PCB曝露がおよぼす児の性ホルモン濃度への影響を、代謝関連SNPsを考慮しながら検討する。これまでの報告で異性体によって母体血中から臍帯血中、胎盤中への移行比や濃度が異なる報告があることから、検討は各異性体ごとに行う。SNPsによる代謝能力の違いを考慮することで、同量の曝露でも個人の代謝能力によって影響が異なる可能性について比較・検討を行うことで、より正確にOH-PCBの影響を評価できる。本研究はこれまで行われていないOH-PCBの胎児期曝露による影響を明らかにする新たな試みである。また、本コホートでは他の環境化学物質測定もされているため、ダイオキシン等によるCYP発現誘導など、環境化学物質の複合的曝露による影響も考慮しながら検討することができる。 以上より得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度はSNPs解析について、測定用実験試薬の在庫で実施できたため、当初想定していた購入費より減額となった。また、研究者の産後休暇ならびに育児休業により国内外の学会に出席ができなかったため、旅費が発生しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度以降に約200名のSNPs追加解析を行うため、H27年度繰り越し分を同解析用実験試薬購入費に充てる。
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