研究課題
これまでPCB胎児期曝露が児の先天異常や生後の生殖機能を妨げるという報告があり、成人よりも環境化学物質に脆弱とされる胎児への影響検討が注目されてきた。PCBの一部は生体内で酸化を受けた後、大部分がOH-PCBへ代謝され速やかに体外へ排出されるとされてきたが、近年OH-PCBはPCB同様生体内や環境中に蓄積することが報告されている。そのため、これまでPCBの健康影響とされてきたものが本来はOH-PCBの影響である可能性があり、早急に解明が必要である。本研究は、大規模出生前向きコホートを用いて、母体血中PCB、水酸化PCB(OH-PCB)濃度を測定し、母のPCB代謝関連遺伝子情報(SNPs)に着目して個人の体内代謝能力差を考慮しながら、臍帯血中の性ホルモン濃度との関連を検討し、胎児期OH-PCB曝露がおよぼす次世代への健康影響評価を行う。代謝に関与するSNPsと体内PCB・OH-PCB濃度との関連を検討し、体内でのPCB代謝経路を明らかにする糸口を提供し、これまでPCBがヒトの健康に与えるとされてきた影響が、実際はOH-PCBの影響である可能性についての解明を目的とすることで、OH-PCBの胎児期曝露がおよぼす次世代への健康影響評価によって効果的な環境リスク対策と予防対策への道を切り拓く。平成15年4月から前向きコホート研究「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ」をすでに立ち上げている(研究代表者:岸玲子)。そのうち、1産科医院で出産を行った母児514組を対象とする。H28年度は、母の妊娠中の保存血液中4-OH-CB107、4-OH-CB146 + 3-OH-CB153、4-OH-CB172、4-OH-CB187の各異性体濃度と、保存臍帯血中性ホルモン濃度のデータがある母児において、OH-PCB濃度と性ホルモンの関連について解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
H27年度中に曝露となる母体血中OH-PCB濃度、アウトカムとなる臍帯血中性ホルモン濃度についてはデータの連結を終了させており、H28年度は当初の計画通り、母体血中OH-PCB濃度と臍帯血中性ホルモンとの関連解析を行った。すでに母の代謝関連遺伝子多型の解析(AhR, AhRR, CYP1A1, CYP1A2, CYP1B1,GSTM1, GSTT1, GSTP1、UGT)についても終了した。
PCB・OH-PCB体内濃度とSNPsとの関連を検討およびOH-PCB体内濃度と性ホルモン濃度との関連を、体内血中PCB、OH-PCB濃度に対する代謝関連SNPsによる影響を考慮して解析する。これまでの報告で異性体によって母体血中から臍帯血中、胎盤中への移行比や濃度が異なる報告があることから、検討は各異性体ごとに行う。SNPsによる代謝能力の違いを考慮することで、同量の曝露でも個人の代謝能力によって影響が異なる可能性について比較・検討を行うことで、より正確にOH-PCBの影響を評価できる。本研究はこれまで行われていないOH-PCBの胎児期曝露による影響を明らかにする新たな試みである。また、本コホートでは他の環境化学物質測定もされているため、ダイオキシン等によるCYP発現誘導など、環境化学物質の複合的曝露による影響も考慮しながら検討することができる。以上より得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
H28年度はSNPs解析について、測定用実験試薬の在庫で実施できたため、当初想定していた購入費より減額となった。
H29年度に対象者への質問票調査を郵送法にて行う予定のため、H27、28年度繰り越し分を調査票作成費、印刷費、郵送費へ充てる。
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Science of the Total Environment
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Environ Health Perspect
巻: 125 ページ: 111, 118
10.1289/EHP142
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