研究3年目となる平成29年度は、北海道外の博物館を中心に平取町二風谷のアイヌ木製盆(イタ)を製作している人々との資料熟覧調査を実施した。また、工芸家との協議のなかでいただいた声を参照しつつデータベース(試作版)を作成した。平行して研究代表者による文献調査、資料調査、データベースに関する調査を実施した。 工芸家との共同調査では、秋田県立博物館、東京国立博物館、日本民藝館に所蔵されているアイヌ木製盆(イタ)の撮影・計測・調書作成をおこなうとともに、二風谷の工芸家とともに熟覧調査を実施し、その様子をビデオカメラによって記録した。そこでは、素材となる木材の樹種、成形の技術、彫刻に使われる刃物の種類(印刀、三角刀、鑿など)、文様および空間の処理の仕方などについての所見が語られ、作り手の個性が見出された。 本研究では、これまで一括りにして語られがちであったアイヌ木製盆に、作風と呼べるものが存在していることを確認されるとともに、制作地や制作者について高い確率で推定可能な木製盆も見出された。数は多くはないが、制作地や制作者などの背景情報をともなわないアイヌ木製盆が、本研究をつうじてソースコミュニティの人々と再会し、地域の歴史のなかへと帰還したことは一つの成果といえる。データベース(試作版)には、本研究期間内に調査したアイヌ木製盆の写真や情報を格納するが、今後もアイヌ木製盆に関する情報を追加・追記が可能なように改良を続ける予定である。
|