研究課題/領域番号 |
15K20831
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 悠介 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 特任助教 (10735624)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | siRNA / 薬物送達 / 脂質ナノ粒子 / 粒径 |
研究実績の概要 |
本研究課題を達成するに当たり、当該年度では主に、脂質ナノ粒子に優れた体内・がん組織内動態を付与する新規両親媒性素材の開発、および、脂質ナノ粒子の小型化に伴うshort interfering RNA(siRNA)送達能の低下の原因の解明を目的とした。 前者については、脂質ナノ粒子の粒径および血中滞留性に影響を及ぼす両親媒性素材の親水性部位の分子量を様々に変化させた誘導体を複数個合成し、それぞれの両親媒性素材からなるミセルの血中滞留性を測定した。その結果、親水性部位の分子量依存的な血中滞留性の変化が観察された。最も結果が良好であった両親媒性素材は、従来、脂質ナノ粒子の血中滞留化に広く使用されるポリエチレングリコール化脂質誘導体(PEG脂質)よりも優れた血中滞留性を示した。また、最適な両親媒性素材を基盤として脂質ナノ粒子の作製を検討したところ、直径約20 nm程度の極めて小さな粒子の作製に成功した。 後者については、特殊な溝が施されたマイクロ流路内に脂質溶液とsiRNA溶液を通すことによって粒径の異なる脂質ナノ粒子を作製し、脂質ナノ粒子の小型化がsiRNA送達活性の低下を招く原因の解明に取り組んだ。まず、粒径の減少に伴う脂分子同士のパッキングの低下、表面積の過剰な増大が明らかとなり、その結果として粒子からのsiRNAの漏出が顕著に増大することが明らかとなった。また、siRNAの漏出には血清蛋白質が関与していた。そこで血清蛋白質に着目して検討を行った結果、粒径の小さな脂質ナノ粒子ほど血清蛋白質の吸着に伴う膜融合能の低下が顕著であった。以上より、脂質ナノ粒子の粒径を小さくする結果、パッキングの低下に伴って血中におけるsiRNAの漏出性が上昇し、また、表面積が増大することで血清蛋白質の吸着量の上昇、それに伴って膜融合能が顕著に減少することが明らかとなった。本成果はJ Control Release誌にアクセプトされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の主な計画の一つである新規両親媒性素材の開発および体内動態を指標とした構造最適化は既に終えている。がん組織内動態を指標とした最適化は現在進めており、代謝拮抗性抗がん剤を含むDNAオリゴを搭載した脂質ナノ粒子の薬理効果の検証にまでは至っていない。一方で、siRNAを搭載した脂質ナノ粒子の粒径低下に伴う活性の減少メカニズムの解明は当初の予定よりも大幅に先行して終えており、次年度において行う計画であった、本知見を元に設計したsiRNA搭載脂質ナノ粒子のin vivoがん組織における活性評価の準備に既に取り掛かっている。以上より、研究全体としてはおおむね順調に進展しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
DNAオリゴ搭載脂質ナノ粒子の処方を、ナノ粒子の安定性やがん組織内動態を主な指標として最適化する。その際、先行しているsiRNA搭載脂質ナノ粒子の活性やがん組織内分布の結果をフィードバックすることで効率的に検討を進める。その後、乳癌やグリオブラストーマなどの複数のがん種における薬理効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度末に動物飼育施設の移設があり、動物を使用した実験を一部行うことができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究においては、主に次年度にて坦がんモデルマウスを用いた実験を多く行う予定である。翌年度分として請求した助成金については計画通りの動物実験に充てる。その際、今回生じた次年度使用額を利用し、各動物実験における各群当たりのマウス数を増やすことでより信頼性の高い実験を遂行する計画である。
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