近年、乳癌は若年層を含めて罹患者数の増加傾向にあり、有効で副作用の少ない治療薬開発が急務である。自然免疫治療は核酸刺激により癌細胞に選択的なアポトーシス誘導が報告されるがインターフェロン(IFN)産生を伴うなど副作用のリスクが懸念される。またそのメカニズムは未だ不明であり、本研究ではその機序解明を行った。 1. まず研究代表者らは核酸(ssRNA)刺激による癌細胞のアポトーシス誘導機序がIFNβ産生に非依存性であることを示した。具体的にはゲノム編集ツール(CRISPR)を用い、IFN産生系シグナルの上流分子MAVS(Mitochondrial antiviral signaling protein)を介さずにアポトーシスが誘導されることを示した。 2. 多くのTNBC(トリプルネガティブ乳癌)を含むp53変異株では、核酸誘導アポトーシスに耐性であるが、正常p53の過剰発現下に感受性を呈する結果を得た。また、p53のリン酸化サイトを解析したところ、p53リン酸化様式が抗癌剤や放射線照射により誘導されるDNA障害(ATM/ATRシグナル)とは異なることを示した。 3. Mass spectrometry解析およびアポトーシスに対するスクリーニングから、RNAセンサー、RIG-I(retinoic acid-inducible gene-I)と会合し、アポトーシスへ関連する候補分子が絞られた。それらのうち正常細胞との発現性の相違から癌細胞選択的アポトーシスシグナル分子の特定に至り、現在、新規経路の検証を進めている。 In vivo研究では、転移性癌への核酸刺激治療を想定し、大腸癌肝転移モデルへ、ssRNA搭載ナノデリバリーを静脈投与したところ、48時間以内に肝転移巣に癌細胞選択的にアポトーシス(TUNEL陽性)が顕著に発現することを組織免疫染色およびFACS解析により示した。
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