研究課題/領域番号 |
15K20835
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
秋山 正和 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (10583908)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 平面内細胞極性 / 数学解析 / 解の存在とその安定性 / Very slow dynamics / 精度保証付き数値計算 |
研究実績の概要 |
我々は平面内細胞極性に関する4変数モデル,およびそれを縮約した1変数モデルを構築している.4変数モデルは実験系との親和性が高く,タンパクの発現量などの実際の細胞の動態を盛り込むことが可能な一方で,数学的な解析が困難であった.しかしながら,1変数モデルは勾配系として,非常に簡単な形として記述されており種々の数学的解析を使用することが可能である.実際,1次元的に細胞を並べた場合に,1変数モデルでは適切な境界条件を設定することで,解の存在とその安定性を議論することができた(本結果は国内外の学会及び研究集会で報告済み). ・1変数モデルでは適切な境界条件を設定することで,解の存在とその安定性を議論することができた.特に仮定する解のタイプによって安定性が変化することがわかった.例えば3細胞の正三角形の頂点に来るように配置した場合,一様解(全ての毛の方向が一方方向)は安定だが,回転解・発散解(全ての毛の方向が左/右方向廻り・中心から外/内方向に向くような解)は予想に反して不安定であることがわかった. ・上記の問題を解決するために,自動的に摂動展開を行うようなプログラムを作成し,様々な細胞数や配置における安定性の解析を行った. ・解析の結果から,系の最大固有値は細胞数が多くなるにつれて,正の数の範囲で小さくなることが分かった.そこで本システムはVery slow dynamicsではないかと予想されている.これらの主結果は国内外の主要な学会及び研究集会で報告済みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は1変数モデルの2次元上での数学解析に重点をおいて研究を行った.主結果としては細胞数やその配置,または仮定する解のタイプによって安定性が変化することがわかった.実際の実験系では,回転解や発散解は安定に存在するようであるため,この予想に反した結果は細胞数や細胞の配置に問題があると推察された.そこで,様々な細胞数や配置を仮定して,安定性の解析を行うこととした. 様々な細胞数や配置を仮定する場合,手計算による摂動展開では問題が非常に困難となることがわかった.そこで,計算処理ソフトMathematicaにおいて,解の候補をインプットするだけで,自動的に摂動展開を行うようなプログラムを作成した(国内外の学会及び研究集会で報告済み).その結果,例えば15細胞の特定の配置において,最大固有値は非常に小さい正の数であることが確認された.このツールを用いて,様々な細胞数や配置における安定性の解析を行った. 解析の結果,特定の配置においては細胞数の増加に伴って,最大固有値が正の数の範囲で徐々に小さくなっていくことが分かった.この事から,本系は非常にゆっくりとした速度で不安定化するシステムとしてよく知られたVery slow dynamicsではないかと推察された(国内外の学会及び研究集会で報告済み).
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今後の研究の推進方策 |
自作した,自動的に摂動展開を行うようなプログラムは非常に有益ではあるものの,もし,本系がVery slow dynamicsであった場合,固有値は細胞数の増加に伴って急速に小さくなるはずである.したがって,倍精度計算における解析結果は信用ができなくなる可能性が大きい.よって,この問題を解決するためには,解の構成・摂動展開・固有値解析という一連の流れ全てを精度保証付き数値計算の範囲で行う必要がある. 既に予備的な研究により,無限多倍長システムを用いて,任意桁までの最大固有値を計算することに成功している.この手法を駆使して,まずは解を区間の中に包み込み,区間演算法を用いて精度保証計算を行うことを検討している. しかしながら,申請者単独では精度保証付き数値計算法習得することは困難である可能性が高いため,精度保証付き数値計算で非常に先駆的な業績を持つ,高安亮紀氏との共同による研究を計画している.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の変更により,旅費の手続きおよび物品の納品などが遅れたため,
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次年度使用額の使用計画 |
物品の納品などに充てる.
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