特に本年度は,企業間価格競争戦略にネットワークが与える影響についての動学的分析に関する研究のワーキングペーパーを様々な国内外の学会において発表し,研究者からのフィードバックを得た.それを踏まえて論文の改訂を行い,論文として完成させ,国際査読誌に投稿した. 本研究全体では,ネットワーク化された市場では,されていない市場と対照的に,価格が完全競争的にならずに高い共謀的水準にとどまり消費者の余剰が低くなってしまうことがわかった.従って,共謀的価格が維持されうる主要な要因の一つはネットワーク化された市場であることがわかった.この結果を活用することにより,よりよい競争政策を行うことが可能になると予想される. また,研究開始当初は予想していなかった,3人市場での協力行動の進化に関する研究を発展させることが出来た.この研究では,2人の部分提携の価値が十分に高いと,効率的な3人提携が進化的に安定とならず,非効率な2人提携が安定となり,提携不参加者に対する社会的な排除が発生してしまうことがわかった.これにより現実経済でなぜ2人,2国の協力は簡単に達成されているのに,3人(国)以上の多数の協力が難しいのかが明らかになった. この予想外の研究発展を進めたことにより当初の「企業間取引ネットワーク形成の動学的分析」に関するコンピュータ・シミュレーションから得られた知見の理論的証明,解釈等は将来への課題として残されたので,これから詳しく分析していきたい.
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