本研究では、糖鎖修飾が嗅覚中枢のニューロンの軸索伸長や神経回路形成を調節し、嗅覚感度のサーカディアンリズム形成に関連している可能性を追究してきた。私たちは、マウスの嗅球内に存在する糖鎖a1-2フコース構造(a1-2Fuc)量が日内変化していることを発見し、その嗅球内における詳細な局在を明らかにした。また、マウスの嗅覚系における糖鎖a1-2Fuc発現が加齢に伴い変化することを見出した。 マウスの嗅覚系は大きく主嗅覚系と鋤鼻系とに分けられ、それぞれ嗅粘膜および鋤鼻器の感覚細胞が、主嗅球および副嗅球の糸球体へと投射している。嗅球における糖鎖a1-2Fucの日内変化は主嗅球の二次投射ニューロンにおいて認められ、副嗅球ではこれらの変化は生じていなかった。またマウスを幼齢および若齢、高齢の3群に分けて糖鎖a1-2Fucの局在を解析したところ、この糖鎖を発現している感覚細胞の比率は、嗅粘膜では加齢性に減少する一方で、鋤鼻器では加齢による影響を受けないことを発見した。同様に、糖鎖a1-2Fucを発現する糸球体の比率は、主嗅球において加齢性に減少するが、副嗅球では加齢による影響を受けていないことを見出した。これらの発見は、糖鎖a1-2Fucの役割が主嗅覚系と鋤鼻系とで異なり、その機能は主嗅覚系では加齢性に低下する一方で、鋤鼻系では一生を通じて維持されている可能性を示すものである。 本研究成果は、脳内に存在する糖鎖修飾が日内変化および加齢性変化していることを示した、初の報告である。
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