研究課題/領域番号 |
15K20843
|
研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
富山 和也 北見工業大学, 工学部, 助教 (70589580)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 路面評価 / 生体情報 / 精神疲労 / 心拍変動 / 脈波 / 平坦性 / 国際ラフネス指数 / ドライビングシミュレータ |
研究実績の概要 |
道路と人との接点となる路面管理には,車両走行時の安全性や快適性など,質的満足度の向上を目的とした対策が求められている.しかし,既存の管理手法は,適当な延長で抽出された区間内で顕在化する,道路利用者への静的な影響の評価を意図しており,時間とともに変化する路面由来の潜在疲労へ未配慮であることから,利用者評価との間に乖離が生じている.本研究課題は,道路管理と利用者評価の間に生じた乖離を埋めるための研究であり,「受動疲労」と定義した路面由来の精神疲労計測に基づき,時間依存性を考慮した合理的な走行路面評価手法の開発を目指している.平成27年度に得られた研究成果は以下の通りである. 1.路面のデータ収集と損傷実態把握を目的に,北海道の中核都市における市街地道路の広域・高密度路面調査を実施した.その結果,幹線道路における国際ラフネス指数(IRI)の平均は2.9mm/mと,「新設舗装」から「供用後の舗装」相当であるのに対し,生活道路では5.0mm/mと,「供用後の舗装」から「損傷を受けた舗装」相当であることがわかった.また,調査結果を基にIRIの確率密度モデルを設計し,地理情報システムにおいて路面情報を可視化する方法を提案した. 2.受動疲労の基礎解析を目的に,ドライビングシミュレータを用いた走行試験を実施し,時間依存性を考慮した路面評価における心拍変動指標の有効性について検証した.その結果,心拍変動の高周波成分(HF)および低周波/高周波成分比(LF/HF)に着目し,IRIとの関係をモデル化することで,車両走行時の時間変化に依存した,受動疲労に基づく路面評価の可能性を見出した.また,受動疲労を考慮した幹線道路におけるIRIの許容水準について,5.2mm/mが目安になるとの結果を得た.なお,本研究成果により,土木学会舗装工学委員会から第二十回舗装工学奨励賞が授与された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は,研究計画に従い,(1) 路面データの収集と分析,および (2) 生体情報計測による受動疲労のモデル化に取り組んだ. (1)については,市街地の幹線道路に加え,これまで不明であった生活道路の路面状況について,統計的に十分なデータを収集・分析し,その平坦性実態を解明することができた.これは,今後の走行試験において,より現実感のあるシナリオ設計を可能とするものである.また,本研究成果は,舗装の維持修繕に関する国際会議に採択され,平成28年度に発表予定である. (2)については,ドライビングシミュレータを用いた走行試験を実施し,心拍変動指標による受動疲労を考慮した路面評価の有効性を明らかにすることができた.これにより,路面損傷と車両振動の持続および累積時間を主要因とした,受動疲労のモデル化についての見通しを立てることが可能となった.また,受動疲労評価における心拍変動指標の時間依存性について検証し,次年度,その結果を全国規模の学会で発表予定である. 以上より,現在までのところ,本研究課題は,当初計画通りの順調な進捗を得ている.
|
今後の研究の推進方策 |
現在までに,幹線道路および生活道路における路面の平坦性状況を調査し,走行試験のための基礎データを得ている.また,ドライビングシミュレータを用いた走行試験から,心拍変動指標による受動疲労評価の有効性について検証した.次年度以降は,ひび割れやわだち掘れなど,平坦性以外の路面要素も含めた三次元的な路面データを取得予定である.特に,これまでの路面調査結果に基づき,損傷程度や延長など,利用者評価の時間依存性に影響することが予想される箇所を抽出し解析対象とする.その後,路面調査結果に基づき設計したシナリオによる走行試験を実施し,路面に対する生理・心理反応の計測を行う.走行試験結果の解析では,これまでの知見に基づき,生体反応の時間変化に影響を及ぼす路面の損傷度合と,車両振動の持続および累積時間に着目していく.その後,受動疲労モデル(=生体反応の時間変化)と心理負荷(=疲労による認知判断の時間変化)の計測結果を照合し,利用者評価の時間依存性を考慮した合理的な路面評価手法の開発を試みる.最終的には,開発した手法を精査し,心理負荷を根拠に疲労限界の設定を試みるとともに,既存の維持管理手法との比較から,提案手法の有効性・優位性を明らかにしていく計画である.
|