本研究計画に基づいて,ラット肝切除後感染性肝不全モデルを作製しmRNAを抽出し,マイクロアレイによる遺伝子の網羅的解析を行った.肝内有機アニオントランスポーターの発現変動が大まかに確認できたため,RT-PCR法による遺伝子定量解析,Western blot法によるタンパク発現変動解析,免疫染色法による病理学的解析を順次施行した. ラット肝切除後感染性肝不全モデルにおいて,肝切除単独モデルと比較し,肝内有機アニオン排泄トランスポーターであるMRP2 (multidrug resistance protein 2),BSEP (bile salt export pump)の発現低下と,MRP3の発現増加,また取り込みトランスポーターであるOATP (organic anion transporting polypeptide),NTCP (Na+/taurocholate cotrasporting polypeptide)の発現増加を,遺伝子およびタンパク発現レベルで証明することができた.また,Sham手術モデルと比較し,肝切除単独モデルでは有意にこれらのトランスポーターの発現変動を呈していることも証明できた.更には病理学的にもこれらのトランスポーターの局在を明らかにすることができた.つまり,大量肝切除後肝再生自体が,ビリルビンや胆汁酸の排泄経路の変更や取り込み阻害を生来し,さらに感染が負荷することによって,ビリルビンや胆汁酸の輸送障害を増悪させる二段階機構を形成することで,肝切除後感染性肝不全時の高ビリルビン血症や高胆汁酸血症の一因となると考えられた. 本研究で得られた結果は,実臨床における肝切除後感染性肝不全の病態診断への応用へ有用であり,肝不全治療の一助となるものと推測される.
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