ヒトが食物を摂取するとき、固形の食物は、口腔内に取り込まれたのちに、歯と歯の間で噛み潰されたり、舌と口蓋の間で押しつぶされたりして、嚥下しやすい状態へと変化する。嚥下できるようになった食塊の状態は、単に食物が細かく砕かれているだけでなく、唾液と混和されることにより粘膜に対する摩擦を減じ、粘膜に対する潤滑性がある閾値を超えていると考えられる。嚥下しやすさの目安となる潤滑性をin vitroで評価するためには、口腔から食道へと食塊を移送する力や、口腔粘膜の特性を再現した評価方法を開発、採用する必要があった。 我々は、先行研究でウシ食道から剥離した筒状の粘膜を口腔粘膜の代替とし、一定の推進力を食塊に与えた際の食塊の移送速度に基づいて潤滑性を評価する方法を開発した。この方法を用いて計測された移送速度は、咀嚼回数が嚥下閾値を越えると増大し、口腔内での食物の潤滑性を評価するのに非常に優れていたが、ウシ食道粘膜内径の個体差や、測定中にも進行する粘膜の変性が、測定の再現性確保の障害であることも判明した。 そこで最終年度は、ウシ食道粘膜の代替として、内径20mm、外形28mmの柔軟性のある塩化ビニル系のチューブを用い、間隙が8mmとなるように配置した2つのローラーでこのチューブをはさみ、水分量を60~85%に変化させたマッシュポテトを挿入したチューブを一定速度で牽引する場合に生じる力を計測した。水分量の変化に伴う牽引力の変化は、ウシ食道粘膜を用いた場合の結果と同様に、被験者が嚥下可能と判断する水分量で牽引力が低下する傾向が認められた。また、細かく粉砕したカマボコに添加する油分を変化させた疑似食塊として、同様の実験を行ない、マッシュポテト以外の試験食品への応用可能性を探った。
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