研究課題
メチル水銀(MeHg)は強力な神経毒性を示す外因性親電子物質であり、酸化ストレス誘導を介した神経毒性を示すことが報告されていが、その毒性発現機構には未だ不明な点が多く残されている。本研究では、MeHgの化学特性に注目し、システインパースルフィドをはじめとした活性イオウ分子種による細胞内親電子シグナルの制御の観点からその毒性発現の分子機構を解明することを目指している。昨年度の研究において、MeHg曝露培養細胞(ラット小脳顆粒神経細胞)における内因性の親電子性シグナル分子である8-ニトロ-cGMPおよび活性イオウ分子種の細胞内動態解析を行い、MeHgが8-ニトロ-cGMPシグナル経路の異常な活性化をもたらすことを明らかにした。本年度は、システイン残基に過剰にイオウが付加したポリサルファ化タンパク質の検出・同定とMeHgの影響の解析、およびMeHg投与ラット脳組織における8-ニトロ-cGMP動態の解析を行った。ポリサルファ化タンパク質の特異的・高感度な検出法として親電子物質標識ゲルシフトアッセイ法を開発し解析を行った結果、各種培養細胞において様々なタンパク質がポリサルファ化されていること、MeHg処理によりタンパク質中ポリサルファが著明に低下することが示された。MeHg投与ラット小脳の8-ニトロ-cGMP生成を免疫組織染色で解析したところ、顆粒細胞やプルキンエ細胞における8-ニトロ-cGMPはMeHg投与開始後一過性に増加し、神経細胞の脱落とともに低下することが分かった。これらのことから、MeHgは生体内ポリサルファを分解することにより8-ニトロ-cGMPシグナル経路の異常な活性化をもたらし、神経細胞毒性を発現することが示唆された。なお、本研究遂行の過程で、翻訳に共役した新規活性イオウ分子種生成系の発見があり、本研究目的に関連した活性イオウ分子種の生理機能解明に深く関わるものとしてさらに詳細な解析を進めていく。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画どおりに研究を実施し、有機水銀の神経毒性発現の解析を通して活性イオウ分子種を介した細胞内親電子シグナル制御機構の解明についての研究成果を得ることができた。さらに、研究遂行の過程で、翻訳に共役した新規活性イオウ分子種生成系の発見があり、予想を超える成果が得られたと評価できる。
本研究の目的をより精緻に達成するために補助事業期間を延長し、研究遂行の過程で発見した翻訳に共役した新規活性イオウ分子種生成系の分子機構と生理機能に関する追加実験を行う。
当初計画を効率的・効果的に進めた結果、計画より少ない直接経費で活性イオウ分子種を介した細胞内親電子シグナル制御機構解明に関する当初目的を概ね達成することができたため。
研究遂行の過程で翻訳に共役した新規活性イオウ分子種生成系の発見があった。本研究の目的をより精緻に達成するために、この新規知見に関する追加実験を行うための消耗品購入等に使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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