研究課題/領域番号 |
15K20858
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小森 大輔 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (50622627)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 乱流フラックス / 不均一地表面 / Monin-Obukhov相似則 |
研究実績の概要 |
本年度は、1.植物生理的な不均一地表面がフラックス観測に及ぼす影響の解明、および2.不均一地表面上がフラックス観測に及ぼす影響の解明に取り組んだ。 1.は、Monin-Obukhov相似則(MOST; Monin and Obukhov(1954))が成立する場合、フラックス測定値とMOSTから算出できるフラックス理論値は異なる測定高度でも同じ値をとることより、タイ国落葉樹林の異なる測定高度(20mおよび30m)で同時測定したフラックスからそれぞれのフラックス理論値の比(理論フラックス比)を算出し、Kim and Komori et al.(2011)を用いて評価したフラックスのばらつきと比較した。顕熱フラックスでは、いかなる風向のフラックスにおいても理論フラックス比は1に近く、フラックスのばらつきは小さかった。日射が地表面を均一に温めるためフラックス観測における熱環境場が一様に均一であり、顕熱フラックスにおいてMOSTが成立することが示された。一方、CO2フラックスは、南東方向以外の風向のフラックスでは理論フラックス比は1に近いものの、フラックスのばらつきが大きい場合があった。落葉樹林の種種の光合成や呼吸のばらつきによってフラックス観測におけるCO2環境場が一様に均一ではなく、その場合のCO2フラックスにはMOSTが成立しない可能性が示された。 2.は、衛星観測から観測サイトの植生指数を算出し観測サイトの地表面状態を指数化した。そしてGash(1986)を用いてフラックス観測のフットプリントを推定し、Join検定(吉川ら, 1995)を用いてフットプリント内における地表面状態のばらつきを指数化し、フラックスのばらつきと比較した。地表面状態のばらつきとフラックスのばらつきには線形相関があることが示され、地表面状態のばらつきが大きいときMOSTが成立しない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
乱流データの定常性によるフラックスの不確実性への影響の解明に関しては、予定通り均一植生および不均一植生上のフラックスの不確実性の解析し、平成27年度土木学会東北支部土木技術発表会およびInternational Symposium on Agricultural Meteorology 2016にて研究成果を報告した。現在、Journal of Agricultural SciencesおよびHydrological Research Lettersに投稿中である。 植物生理的な不均一地表面上でのMonin-Obukhov相似則(MOST; Monin and Obukhov(1954))の検証に関しては、予定通り均一植生である耕作地の異なる高度・地点でのフラックス同時観測実験を実施し、予定通り植物生理的な不均一地表面がフラックス観測に及ぼす影響を解析し、平成28年度土木学会東北支部土木技術発表会にて研究成果を報告した。現在、海外論文誌に投稿すべく、論文執筆準備中である。 不均一地表面上でのMOSTの検証に関しては、予定通り現地踏査および衛星観測による観測サイトの地表面状態の指標化し、当初の計画より早くフラックス観測のフットプリントを推定し、当初の計画より早く不均一地表面上がフラックス観測に及ぼす影響を解析し、平成28年度土木学会東北支部土木技術発表会にて研究成果を報告した。現在、土木学会論文集G(環境)に投稿中である。 乱流物理モデルによる数値実験のためのモデルの整備に関しては、予定通り空間平均モデルを導入し、乱流フラックスの不確実性のメカニズムを解明するための数値実験の準備は万全である。 このように、当初の予定よりも早く解析が進められており、また論文も現在3報投稿していることより、当初の計画よりも早く当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に取り組んだ植物生理的な不均一地表面上でのMonin-Obukhov相似則(MOST; Monin and Obukhov(1954))の検証および不均一地表面上でのMOSTの検証を継続して、2003年からこれまでに得られたデータを基にさらに解析を進める。特に、不均一地表面上でのMOSTの検証において、Join検定は2つの土地利用状態のばらつきを示す統計手法であることより、3つ以上の土地利用状態のばらつきを示す統計手法を検討することが課題である。 もし、不均一地表面がフラックス観測に及ぼす影響が解明できなかった場合は、Gang et al.(2011)の実験的手法を参考に、そのメカニズムを解明するための乱流物理モデルによる数値実験に重点を移す。 また、当初の計画よりも早く当初の計画以上に進展していることより、Kim and Komori et al.(2011)によって評価したフラックスのばらつきにかかる指標を用いて、フラックス観測による土地利用変化の観測手法の開発を検討する。フラックスのばらつきは、不均一地表面だけでなく、気象場の非定常性の影響を大きく受けることより、乱流物理モデルによる数値実験などを用いてフラックスのばらつきから気象場の非定常性の影響を取り除き、不均一地表面の影響を抽出することが課題である。
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