研究実績の概要 |
大気と陸面間の熱、水、二酸化炭素の交換量を監視するためのフラックス観測は、Monin-Obukhov相似則(MOST; Monin and Obukhov, 1954)を基に飛躍的な発展を遂げてきた。一方、野外において観測対象は常に植物生理的かつ物理的に不均一な地表面であり、不均一地表面上のフラックス観測の不確実性は未だ検討できていない。本研究では、1.植物生理的な不均一地表面がフラックス観測に及ぼす影響、2.物理的な不均一地表面上がフラックス観測に及ぼす影響を明らかにし、不均一地表面上でのMOSTを検証した。 1.は、MOSTが成立する場合フラックス測定値とMOSTから算出できるフラックス理論値は異なる測定高度でも同じ値をとることより、タイ国落葉樹林の異なる測定高度(20mおよび30m)で同時測定したフラックスから各測定高度における両者の比(理論フラックス比)を算出し、Kim and Komori et al.(2011)を用いて評価したフラックスの時空間的不確実性(δ)と比較した。顕熱および潜熱フラックスでは、総じて理論フラックス比は1に近くフラックスのδは小さく、MOSTが成立することが示された。一方、CO2フラックスは、フラックスのδが大きくても理論フラックス比は1に近い場合があった。落葉樹林の種種の光合成や呼吸のばらつきによってフラックスのδが大きくても(植物生理的な不均一地表面)MOSTが成立する可能性が示された。 2.は、タイ国落葉樹林の測定高度100mのフラックス測定を対象に、衛星観測の植生指数から観測サイトの土地利用を分類し、Join検定(吉川ら, 1995)を用いて指数化した土地利用の不均一度とフラックスのδには線形相関があった。理論フラックス比は、運動量は風が弱い夜間に、顕熱は日射により均一な熱環境が卓越する昼間に、1に近い頻度が多かった。
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