本研究の目的は強風災害において日本の住宅が被る被害総額と風速の関係を示す脆弱性モデルの構築であり、①強風・飛来物による開口部の破損、②開口部破損による内圧上昇に伴う屋根に作用する上向き風力の増加、③屋根・壁接合部の破壊、という被害のシナリオを想定している。平成29年度は既往文献調査に基づく飛来物による窓ガラス破壊モデル作成のための耐力情報の取得、これまで得た情報を用いての住宅に作用する風速と被害率の脆弱性モデルの作成、そして住宅建設を行う工務店へのヒアリングを基に作成したコストモデルを用いての期待損失額の試算を行った。結果として以下の考察を得た。 飛来物による窓ガラス破壊モデル作成のための耐力情報に関しては、既往文献調査の結果、ガラス寸法と衝撃モーメントとの関係で窓ガラス破壊確率を考察することが多く、この破壊確率は実物大窓ガラスを用いた衝撃実験結果に基づいている。しかし対象とされた窓ガラス寸法も限定的であり、中でも一般住宅に用いられている寸法に近い既往研究結果を採用し、この窓ガラス寸法を脆弱性モデル作成時に想定する住宅の有する窓ガラス寸法とした。 風速と被害率の脆弱性モデルであるが、対象建物の建設地(地表面粗度区分、周辺状況)や建物情報(築年数,窓の数,建物形状)などを任意に設定し、これに対応する、対象とする建物部材の風荷重情報・耐力情報の統計値を選定する。一方で、任意のパワースペクトルを持つ変動風速時刻歴をモンテカルロ法により発生させることで風速時刻歴を作成する。この時刻歴に沿って、各時刻における対象部材の破壊判定を行う操作を繰り返すことで、各部材の破壊確率を算定した。この際、窓ガラス破損による内圧の上昇、そして屋根・壁接合部に作用する風荷重の増加を考慮している。こうして求めた各部材の破壊確率とコストモデルを組み合わせることで、期待損失額が計算できるモデルを作成した。
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