研究課題/領域番号 |
15K20864
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
桑谷 立 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球内部物質循環研究分野, 研究員 (60646785)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ベイズ推論 / スパースモデリング / 温度圧力履歴 / 岩石組織 / データ駆動科学 |
研究実績の概要 |
本研究は,化学組成や岩石組織などを含む多様な岩石学データから,潜在構造・プロセスを正確に抽出するデータ駆動型の解析技術基盤を構築することを目的とする.具体的には,ベイズ推定と疎性モデリングを最大限に活用することで,鉱物組成データから温度圧力履歴を推定する手法や,全岩組成・岩石組織データから隠れた本質的な物理化学プロセスを抽出する手法を開発する. 平成27年度は,【課題1】ベイズ推論を用いた新しい温度圧力履歴推定法の開発,に関して,包有物とホスト鉱物の化学平衡論を利用する新たな確率論的温度圧力計の開発に成功した.開発した手法を用いると,少ない組成データだけからでも定量的な温度圧力履歴を推定することが可能である.黒雲母・斜長石包有物を含むザクロ石の文献データに適用し,手法の有効性を検証済みである. 【課題2】スパースモデリングを用いた全岩組成からの物理化学モデル抽出,において,岩石の混合プロセスを抽出する新たな多変量解析法を開発した.本手法により,今まで取扱いが難しかった組成データの定量的逆解析が可能になり,岩石や堆積物など様々な対象に関して起源物質を推定することができる.さらに,主成分分析や独立成分分析などの既存解析手法に関して,手法の有効性や妥当性などの検証を行った.その結果,研究対象や研究目的と,利用するべき適切な解析手法の対応関係が明らかになってきた. 以上のように開発しつつあるデータ駆動型解析を岩石学を含む地球科学分野全体へ定着させるために,多数の学会セッション・シンポジウムを主催した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度に実施した【課題1】ベイズ推論を用いた新しい温度圧力履歴推定法の開発,において,鉱物包有物の化学組成を利用する新たな確率論的温度圧力計の開発に成功したため. さらに,【課題2】スパースモデリングを用いた全岩組成からの物理化学モデル抽出,についても,主成分分析や独立成分分析などの既存手法の適用可能範囲や有効性を検証できたとともに,物質の混合プロセスを適切に抽出する新たな多変量解析法の開発に成功したため.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,【課題1】に関して,これまでの研究をまとめ,学術論文として公表する.【課題2】に関して,人工データ解析による妥当性評価がおおよそ完了したため,実データ解析を中心に実施する. 一方,【課題3】スパースモデリングを用いた岩石組織からのダイナミクス抽出,に着手する.実際のモデリングにあたっては,研究協力者らの力を結集し,脳科学や物理学における逆問題の知見を最大限に活かして方法論構築を行う.多数のパラメータや局所解を持つ非常に困難な最適化問題になると予想されるが,レプリカ交換MCMC 法等の最近の機械学習技術を駆使した最適化アルゴリズムを用いて解決する.まずは,時間モデルのみ・空間モデルのみの単純な人工データを扱い,段階的に系を複雑化した後,実データとして,三波川変成帯高度変成岩などに適用する. 最終年度である平成29年度は,各課題のまとめをするほか,【課題3】の研究を可能な限り推進する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が研究開始初年度と同時に異動したことにあわせて,必要な物品の購入や出張旅費の支払いの必要がなくなったため.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は,前年度分の予算が繰り越されたことにあわせて,平成28年度の請求を減額することで,おおよそ当初計画通りの執行を進める. 平成29年度は,当初研究計画が予想以上に進展していることから,多数の研究成果が見込まれるため,成果発表のための出張旅費や論文投稿に関する費用などに使用する.また,計算資源の確保のための物品費などに使用する.
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