研究課題/領域番号 |
15K20865
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
椋平 祐輔 東北大学, 流体科学研究所, JSPS特別研究員 (PD) (60723799)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 誘発地震 / 地震リスク / Slip-able area / 微小地震 / Possible Seismic Moment / 水圧刺激 |
研究実績の概要 |
能動的地熱開発,シェールガス開発,二酸化炭素地下貯留等の地下に流体を圧入する分野における誘発有感地震の発生リスク評価は極めて重要である。本研究では既往の地震統計学に基づくリスク評価に対して,物理的な根拠が明らかな誘発有感地震のリスク評価の実現を目指す。これはリアルタイムに推定される微小地震情報より抽出した物理パラメータに基づくSlip-able areaという新たな評価概念を導出する事により実現する。初年度にはSlip-able areaが断層面積を推定する際のモデルに依存する事より,より本質的なパラメータである地震モーメントを用いた同様の概念Possible Seismic Moment と置き換えて研究をスタートさせる事とした。 本研究で開発したPossible seismic Moment modelでは以下の手順によりリスクアセスメントが可能となる。 ①誘発微小地震の震源位置,震源パラメータ(地震モーメント)をリアルタイムで推定する。 ②任意の大きさの岩体内で,現時刻までに発生した微小地震の地震モーメントの総和を岩体体積で除した値を,単位体積当たりの地震モーメントD[Nm/m3]とする。 ③微小地震の震源分布の空間進展を間隙水圧の伝搬とみなし,微小地震の震源位置を基に,間隙水圧の上昇により微小地震を発生しうる状態に達した岩体の体積Vstim [m3]を推定する。ここでは,対象領域をグリッド化し,微小地震が一つでも発生した領域を,間隙水圧が上昇した岩体とする。 ④DとVstimの積より,Possible Seismic Momentを算出する。これと実際に観測した地震モーメントの総和との差を比較し,それを誘発地震を将来的に発生させうる総地震モーメントとする。これは将来的に発生する地震の最大マグニチュードに変換可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Possible Seismic Moment modelをスイス,バーゼル地熱フィールドで発生した一連の微小地震に適用した。本フィールドでは,水圧刺激停止直後に誘発有感地震が発生している。ここでは,この地震のマグニチュードを事前情報を用いて評価する事が求められる。D,Vstimを求めるにあたって,概念的なモデルから実データに応用する際の技術的な問題をクリアする必要はあったが,より手法も洗練した。さらに,Possible Seismic Moment modelを用いて,本フィールドの誘発地震活動を評価した結果,マグニチュード最大の誘発地震が発生する前に,本モデルは最大マグニチュードとほぼ同等の値を評価する事に成功した。この事は,本モデルが誘発有感地震のリスク評価を行う事が十分に可能である事を示している。また,これまで地震統計学に基づくリスク評価が主流だったのに対して,物理的観点からのリスク評価という新たな指標を提供するものである。 これより,研究計画のうち(1)理論導出と(2)妥当性・性能評価は完了したといえる。よって,研究は計画以上に進展している判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後,本研究の進展は以下の2つのテーマに注力する。 # 多フィールドへのPossible Seismic Momentモデルの適用と誘発地震リスク評価 申請者の研究グループが有する他の誘発微小地震データ(フランスソルツフィールド,オーストラリアクーパーベースンフィールド等)にPossible Seismic Moment modelを適用し,本モデルの適用可能性,汎用性を評価する。さらに,南アフリカの微小地震データに適用する事も考えている。
# より物理的なモデル(Slip-able area Model)への展開 既にPossible Seismic Momentモデルは本研究の問題に対して一定の解決を示したが,より物理的意味の深いSlip-able modelへと発展する。ここでは,当初の計画通り,単位体積あたりのせん断滑りを起こしうる断層面積Kを用いてDの代わりとし,誘発地震リスク評価を行う。さらに,地殻応力情報・間隙水圧情報を導入し,より現実に近いモデルとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,特にヨーロッパの地震統計学を得意とする研究者を訪問し,議論を重ねる上で,本研究で提案するモデルを確立させる予定であった。幸いなことに,申請者は本年度,日本学術振興会特別研究員PDの身分であり,それを対象としたFellowship under the “Young science and technology programme between Japan and Switzerland 2014″を獲得したため,本年度の上半期はスイス,チューリッヒ工科大学で研究を実施した。その際に,本科研費を用いてドイツの研究者,滞在先のスイスの研究者と十分に議論を行うことができた。そのため,その分の旅費を使用せず,次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度ですでに画期的な研究成果が得られた為,その結果は既に論文として公表するべく,現在,査読修正中である。その際に必要な英文校正,オープンアクセスとする為の費用として使用することを考えている。 さらに,本研究で提案するモデルに対して,自然地震を対象としている国内の地震学者とも意見交換することをも重要であり,その旅費として使用することも考えている。
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備考 |
本年度上半期は,Fellowship under the “Young science and technology programme between Japan and Switzerland 2014″を獲得し,スイス,チューリッヒ工科大学で研究を実施した。
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