1995年の阪神・淡路大震災による未曽有の被害から心的外傷後ストレス障害(PTSD)と呼ばれるストレス関連慢性精神疾患が知られるようになり、その後の大震災においてもPTSD発症は社会的問題となっている。 本研究は、PTSD発症メカニズムを明らかにするため、PTSDモデル動物の脳形態変化と行動変化を経時的に観察検討する。PTSD動物モデルとして、強いストレッサーを与えられたラットを長期間経時観察するパラダイムを用いた。そして、小動物用核磁気共鳴画像法(MRI)を用いることで、同一個体の脳形態変化を非侵襲的に経時的に測定することで、強いストレッサーによって引き起こされた脳の形態変化が、どの脳部位において顕著に生じているのかを検討することが可能である。全脳を対象とした脳形態変化を検討するために、ラットを用いたvoxel-based morphometry解析法を行うこととした。ヒトの脳画像解析に用いられる手法であり、ラットにおいても同様の解析方法を適用することができる強みがある。 長期経時観察PTSDラットモデルパラダイムを行う前に、ベースラインとなる構造MRIを撮像した。その後、PTSD様行動を引き起こすストレッサーを与え、経時的行動観察を行った。経時的行動観察に、オープンフィールド行動および文脈恐怖条件づけを用いた。 本研究の結果、ストレッサーから遅延したうつ様行動の発現および、恐怖反応の増強がみられたことから、PTSD動物パラダイムとMRIを組み合わせた適切なモデルの作成を行えたといえる。強いストレッサーを受けたラットは、記憶と関連する脳部位の灰白質容量の減少を示したことから、PTSD様症状を示すメカニズムは、記憶過程の障害と関連することが示唆された。
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