研究課題/領域番号 |
15K20868
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菅原 雅之 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (90742776)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | タンパク質分泌系 / ダイズ根粒菌 / エフェクター |
研究実績の概要 |
(1) 根粒菌3型分泌タンハク質が及ぼす共生不和合性の分子機構 Rj2遺伝型ダイズに対して根粒を形成するUSDA122の抑圧変異株を多数取得し、それらのドラフトゲノムより推定されたエフェクター候補遺伝子を破壊したところ、3型構造体遺伝子 (rhcJ) 破壊株と同様にRj2ダイズ品種Hardeeに対して正常な根粒形成を示した。本遺伝子の上流から根粒菌に共通して確認される3型分泌系遺伝子のプロモーター領域が存在していたことからも、当該遺伝子がRj2共生不和合性を誘導するエフェクターをコードすることが強く示唆された。 (2) ダイズ根粒菌新規6型分泌機構の共生相互作用における働き Bradyrhizobium属ダイズ根粒菌の6型タンパク質分泌系 (T6SS) 構造体をコードすると推定される遺伝子群から、過去の文献よりT6SS機能に必須とされる遺伝子hcpとimpBを選抜し、それらのin-flame遺伝子破壊株をBradyrhizobium diazoefficiens, B. japonicum, B. elkaniiに対して作製した。これら破壊株の栽培ダイズに対する共生能を接種試験により調査した結果、ダイズ品種エンレイへの根粒形成能が確認されたため、ダイズへの根粒菌の感染初期段階においてT6SSの影響は示さないことが推察された。一方で、野生株接種区に比べて破壊株を接種したダイズの根には小さめの根粒を形成し、逆に根粒数が増加する傾向が根粒菌種に依存して観察された。またダイズ根粒菌のT6SSの大腸菌K12株に対する殺菌効果を検討した結果、共培養後の大腸菌細胞数にT6SS遺伝子群の有無による違いは検出されなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、宿主植物根圏における根粒菌の感染戦略を理解することを目的して、(1)根粒菌3型タンパク質分泌系が及ぼす共生不和合性の分子機構、およひダイズ根粒菌の新規6型分泌機構が示す宿主植物との共生相互作用における働きの解明を目的とした。 3型分泌機構の機能に関しては、Rj2ダイズに対する共生不和合性を誘導する3型分泌エフェクターが同定を試みた結果、1つの強力な候補遺伝子を取得することに成功した。6型分泌機構の共生相互作用に関する機能解析に関しては、3種のダイズ根粒菌における遺伝子破壊株を作製することに成功し、またBradyrhizobium属細菌のT6SS機能を簡便に検出するための抗Hcp抗体の作製を完了した。このように今後のT6SSの機能解析において有効な材料を構築できたため、来年度以降のさらなる研究の発展が期待できる。またT6SSのダイズとの根粒形成に関する影響を明らかにし、T6SSが根粒着生後に根粒成熟に対して何らかの機能を果たしていること、及びそれが根粒菌種に依存的な影響であることが推測された。
|
今後の研究の推進方策 |
(1) 根粒菌3型分泌タンパク質が及ぼす共生不和合性の分子機構 今回USDA122株より同定したRj2ダイズとの共生不和合性を誘導するエフェクター候補は、USDA110株のような和合性の近縁根粒菌株のゲノム上にも存在する遺伝子である一方で、USDA122株の遺伝子にはアミノ酸置換を示す特有のSNPが数カ所確認されている。今後はRj2ダイズに対する表現型が当該遺伝子のアミノ酸残基の違いにより決定しているのか否かを調査するため、USDA122株とUSDA110との間での遺伝子の入れ換えを行う。その結果アミノ酸残基の違いが表現型を決定していることが明らかとなった場合には、USDA122ゲノム内の当該遺伝子の点変異株を作製し、原因となるアミノ酸残基の特定を行う。またBradyrhizobium根粒菌の遺伝子破壊株をrj2ダイズ及びGlycine属以外のマメ科植物種に対する接種試験を行い、当該エフェクターのマメ科植物との共生における優位性について調査を行うことで、根粒菌がエフェクター遺伝子を保有する意義について迫りたい。
(2) ダイズ根粒菌新規6型分泌機構の共生相互作用における働き Bradyrhizobium属根粒菌のT6SS機能の有無を検出するため、野生株及び遺伝子破壊株の培養液上清中に含まれるタンパク質画分を抽出し、作製した抗Hcp抗体によるウエスタンブロッティング解析を行う。また過去の文献よりBradyrhizobiumのT6SS遺伝子が根粒発達段階において発現上昇することが示唆されていること、及び本研究における遺伝子破壊株のダイズへの接種試験より着生した根粒が小さめであったことから、根粒の発達段階においてT6SSがポジティブな機能を果たしている可能性が考えられる。今後は根粒内部の観察や着生した根粒の窒素固定活性、及び遺伝子発現機構について詳細に検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の結果は、根粒菌とマメ科植物の共生相互作用の研究分野において大きなインパクトを与えることが推測されるが、国内外に研究競合者がいることが予想されるため本年度における学会発表を控えた。したがって旅費にかかる費用が抑えられたため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、次年度の学会発表の際の旅費として使用する予定である。
|