本研究計画の目的は画像処理の非線形フィルタ理論の方法を用いて新しい確率的画像処理の方法論を構築することであり,具体的には(1)非線形フィルタの特徴を持つ確率的画像処理モデルの構築(2)効果的な画像処理アルゴリズムの開発(3)画像処理モデルのパラメータ学習法の確立,という3点の達成を目指すものであった.(2)の研究については非線形フィルタ理論を用いた効果的な計算法や確率モデルの構造的特徴を利用した推定アルゴリズムを提案する等,研究機関全体を通して精力的に取り組むことができ,当初目指してきた目的はほぼ達成されたと考えられる.しかしながら,(3)の研究テーマでは簡単な画像処理モデルに関するパラメータ学習法の開発までは進めることができたが,基礎的なモデルにとどまり当初目的としていた非線形性を効果的に取り入れた学習法の提案までは進まなかった.(1)の研究テーマについては画像自体がもつ非線形性が当初予想していたもの以上に複雑であり,画像の非線形性を積極的に取り入れたモデルの構築とまでは至っていない.しかしながら,本研究計画の実施によりこれまでの画像処理研究では考慮されなかった新しい画像処理法に関する知見がいくつも得られており,本研究計画の遂行は画像処理研究の発展に一定の効果はあったと考えられる.また,本研究計画は上記の当初予定していた研究テーマの他に量子アニーリングという最新の方法を用いた新しい推論法の提案等,計画当初では考えられなかった新しい展開を見せており,特にこの最終年度では音楽信号を高精度に処理する新しい信号処理方法の開発に成功している.本研究計画では画像処理分野だけでなくもっと広い信号処理分野に適用可能な成果が得られており,画像処理を含む信号処理分野の発展に大きく貢献することができたと考えられる.
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