研究課題/領域番号 |
15K20871
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研究機関 | 沖縄国際大学 |
研究代表者 |
及川 高 沖縄国際大学, 総合文化学部, 講師 (60728442)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 政治参加 / 世代交代 / 生存と実存 / 地域社会 |
研究実績の概要 |
当該年度には当初計画に従い、奄美群島の喜界町において2度のフィールドワーク(延べ15日間)を実施した。また当初計画外であったが、行政分離期における沖縄と奄美群島の関係が視野に入ってきたため、沖縄北端の離島である伊是名島でのフィールドワーク(延べ8日)を実施した。ほか沖縄県公文書館で関連資料の捜索にも従事した。調査にあたって注視したのは、復帰に前後する奄美の人々の生活条件であり、特に経済的な状況がいかなるものであったのかをインタビューを通じて掘り下げた。暫定的な認識として、復帰運動期の奄美において経済的困窮は確かに見出された反面、その困窮は生存そのものが困難となるような絶対的貧困ではなく、教育機会の制約や将来像の不明確さといった、むしろQOLや実存に関わるものとして貧困が経験されていたものと考えられる。地域社会において奄美の復帰運動の中心が若者であったことは既に指摘があるが、社会の中核層よりも、若者が運動を担うこととなった背景には、運動が「生存」ではなく「実存」のレベルで動機づけられていたことを反映しているのではないかというのが、現時点での見通しである。このため今期の調査の公判では地域の若者集団に関しても調査に着手し、彼らの地域における活動と、進学・就職・出稼ぎといった個々のライフステージの具体相についても整理を進めている。なお研究が進んだ結果見えてきた本研究の意義として、「現前する地域の生活」を否定するような政治運動が、いかに地域社会において可能となるか、という主題が浮かび上がってきた。開発や経済振興への期待は、ある意味で「今の暮らし」を否定することであり、その主張は地域社会に大きな葛藤とストレスをもたらさざるを得ない。このとき「若者」や「次世代」を意識することはこの葛藤を合理化し、社会の変化を許容する大きな契機となっているのではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、当該年度には奄美大島に関する調査にも視野を広げる予定であったが、これは研究環境の変化もあって日程が確保できず、実現できなかった。その一方で沖縄に研究拠点が移ったことにより、現地の史料へのアクセス機会が著しく向上したため、近現代南島の歴史的・社会的な全体像の認識は想定よりも順調に確立されてきている。また本務校は南西諸島の地域研究の専門家に関しては国内有数の機関であり、今後研究を整理していく上でも同僚研究者からのアドバイスが期待される。加えて実務の上でも、学内附置機関の南島文化研究所が主催する喜界島の現地調査にも関わっており、本計画の所定の課題としている現地へのフィードバックに関しても見通しが立っているため、拠点の移動を含めても、全体として研究の遂行はおおむね順調に進展していると自己評価する。 一方で課題としては、現地調査日程の確保に制約が生じたことにより、十分なフィールドワークの時間の確保が困難となったため、インタビュー調査のボリュームが見込み通り達成できていないことが挙げられる。この点は次項で述べるように、調査の効率化によって解決したい。もう一つの課題は、史料アクセスの向上という研究環境の好転を踏まえ、それに見合った研究水準を確保することにある。奄美の復帰に関しては沖縄には多くの史料があり、特に米軍に関するものは沖縄でなければ閲覧が難しかった。今回、それらを活用しやすい研究環境となり、具体的に参照すべき史料の目途もつけつつある段階ではあるが、いかにそれらを統合し、重層的に地域の生活史像を描き出すかについては模索の段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は当初計画を踏まえ、徳之島・与論島のフィールドワークを計画している。ほか日程を確保したうえで喜界島・奄美大島の調査を継続する予定である。前記のように日程の確保が課題であるため、①事前の現地コーディネイターとの密な調整、②現地民俗誌資料の早期の手配、を軸として、現地調査の効率化を図ってゆきたいと考えている。なお2015年度にともに別件で、単著の刊行と現地での学術成果講演会を経験したが、このことが現地に、調査者としての認知を深め、ラポールを確保するために果たした効果は想定以上に大きかった。喜界島での継続調査は、この効果を最大化するために、当初の計画を越えて実施するものであるが、こうした現地へのフィードバックによって調査を効率化させていく方法も今年度は考えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査に関して当初計画より旅費が抑えられたため。
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次年度使用額の使用計画 |
奄美群島の現地調査費に充当する予定である。
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