研究課題/領域番号 |
15K20873
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
住吉 晃 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (80612530)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経科学 / 近交系マウス / 環境エンリッチメント / MRI / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
遺伝子型が均一な近交系マウスを環境エンリッチメント飼育(輪回し設備、迷路、おもちゃなどを含む多個体飼育環境の総称)に暴露する事で、マウスの脳重量、体重、神経新生の個体差が顕著に拡大する事が近年報告された。この実験モデルは、近交系動物を用いて遺伝要因を排除する事ができるため、生得的な環境要因が与える行動表現型への影響を解明する上で、非常に有益なモデルである。本研究では、この実験モデルを用いて、脳画像解析・行動解析・エピジェネティックス解析を行い、マウスの個体差拡大が顕著な脳神経回路・行動表現型・分子機構を明らかにする事を目的とする。研究代表者のグループでは、小動物用7T-MRIを用いたラット・マウスの脳イメージング研究をこれまでに展開してきており、ヒトのイメージング研究で用いられている脳形態画像解析(voxel-based morphometry)、脳機能画像解析(functional magnetic resonance imaging)などが使用可能となっている。ヒトのイメージング研究へのトランスレーションを考える上でも、非常に有益な手法が揃っていると言える。平成27年度の前半では、動物実験計画の承認も含めて、近交系マウスの環境エンリッチメント介入実験の準備を進める。平成27年度の後半から、近交系マウスの内側側頭葉記憶システムの脳機能形態変化の個体差拡大に着目して、脳形態解析、脳機能解析、行動解析を組み合わせた介入実験を行う事を目標とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
離乳直後のマウスでは、脳イメージング画像の十分な解像度と信号雑音比が得られないと判断したため、成獣の近交系マウスを対象とした長期介入実験を行う事とした。12週齢のオスの成獣C57BL/6Nマウスに対して、6週間の長期環境エンリッチメント介入(輪回し設備、おもちゃ、階段などを含む、マウス16匹の同時飼育環境)を行い、介入の前後で、小動物用高磁場7T-MRI装置を用いて、高解像度のマウス脳形態画像(T2強調画像)を取得した。脳形態画像解析の結果、6週間の環境エンリッチメント介入により、成獣マウスの両側の背側海馬において、有意な局所灰白質体積の上昇を確認した。現在、局所灰白質体積変化の背後にある細胞機序を明らかにするために、古典的なゴルジ染色法により、マウス背側海馬の神経細胞の形態変化の解析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の前半は、前年度に行った介入実験(介入実験1回目)のマウス死後脳の組織染色解析を行う。組織切片の作製、各種染色、組織の定量解析を行うため、約半年間かけて行う。平成28年度の後半は、近交系マウスのデフォルモードネットワークの脳機能ネットワーク変化の個体差拡大に着目して、脳機能解析(rs-fMRI)、脳拡散強調画像(DTI)、行動解析を組み合わせた介入実験を行う(介入実験2回目)。介入実験は同様に4カ月かけて行い、MRI測定と行動検査は、介入前(1カ月齢)と介入1カ月後(2カ月齢)から4カ月後(5カ月齢)までの月1回ずつ、計5回の経時モニタリングを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国内学会での成果発表に、データ解析が間に合わなかったため、その分の旅費を次年度に繰り越す事とした。
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次年度使用額の使用計画 |
マウス介入実験に必要な物品費(実験動物、麻酔剤、酸素ガス、染色抗体、ゴルジ染色キット、アセチル化アッセイキットなど)として計60万円、平成28年度に開催される神経科学に関する国内学会、あるいは国際学会での研究成果発表を行うための旅費として計50万円、国際科学誌に研究成果の発表を行うための論文掲載費用(その他)として計10万円、直接経費の合計で120万円を計上した。
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