研究課題/領域番号 |
15K20874
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小林 美穂 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (50630539)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 血管安定化 / VE-カドヘリン / VEGF |
研究実績の概要 |
まず血管安定化におけるVASH1誘導性Glu-チューブリン増加の必要性を検討した。顕微鏡解析から、VASH1によって血管内皮細胞(ECs)内のGlu-チューブリン量を増加させると、VE-カドヘリンの細胞間接着部位における直線的な局在が増加する傾向にあった。VEGF刺激によりコントロールのECsでは細胞間接着が解除され、VE-カドヘリンの局在も直線的ではなく途切れた鋸歯状に変化したが、VASH1を作用させたECsではそのような変化が乏しかった。そしてVASH1と共にTTLを作用させてECs内のGlu-チューブリン量を通常状態まで低下させると、VEGFが誘導する細胞間接着の崩壊やVE-カドヘリン局在変化への効果が復活した。また生化学的解析として、単層培養したECsを通過した蛍光ラベルされたデキストラン量を相対的に観察した結果、VASH1を作用させたECsではVEGFによる透過性の亢進が抑制されており、VASH1と共にTTLを作用させると復活した。したがって、VASH1誘導性のGlu-チューブリン増加は血管安定化を誘導すると考えられた。 次に、VEGF誘導性の血管透過性亢進に必須であるVE-カドヘリンの細胞内取込みについて検討した。VASH1はVEGF刺激後のVE-カドヘリンの細胞内取り込みを抑制し、VASH1とTTLを共に作用させることで抑制が解除された。従って、VASH1誘導性Glu-チューブリン増加はVEGFによるVE-カドヘリンの細胞内取り込みを抑制し、それにより血管安定化が増強されると考えられた。 Ang/Tie経路においてもVASH1が同様な影響を及ぼすかどうかについては、解析に使用する組換えタンパク質や抗体について条件検討中である。また、VASH1とTie2との結合解析については、活性型組換えVASH1タンパク質を作成中であり、昆虫細胞過剰発現系により得られた組換えVASH1の活性調査中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずは血管安定化の指標としてVE-カドヘリンに注目して解析を進めた結果、細胞生物学的解析及び生化学的解析により、VASH1によるGlu-チューブリン増加が血管安定化の増強を誘導し、VASH1と共にTTLを作用させてECs内のGlu-チューブリン量を通常状態まで低下させるとVEGFによる血管不安定化が復活した。従って、VASH1によるGlu-チューブリン増加が血管安定化に寄与することが明らかになった。 この現象の細胞内機構を詳しく調べるために、VEGFによるVE-カドヘリンの細胞内取込みについて解析したが、当初予定していた細胞表面ビオチン化アッセイやFACScan解析では、細胞間接着に寄与している状態でVE-カドヘリンを標識することが難しく、コントロールECsでもVEGF刺激による細胞内取込みの増加が有意に検出できなかった。従って、その他の生化学的手法として細胞内成分を分画し、細胞質分画に移行したものを細胞内に取込まれたものとして解析した。その結果、コントロールECs においてVEGF反応性のVE-カドヘリンの細胞内取込みが良好に検出され、VASH1によるVEGF刺激後のVE-カドヘリンの細胞内取込みの抑制や、VASH1とTTLを共に作用させた際の抑制の解除が観察された。また、VE-カドヘリンの細胞内取込みの細胞生物学的解析として、in situ PLA によりVE-カドヘリンとエンドソームマーカーとの共局在のみで検討しているが、実際に細胞内に取り込まれたVE-カドヘリンを特異的に可視化するために、VE-カドヘリンに対してantibody feeding assayを行うことで、さらに詳細に解析する。 Ang/Tie経路の解析については、購入・使用している組換えAngタンパク質が高価で低活性であることから、使用する組換えタンパク質や抗体について条件検討中である。また、VASH1タンパク質とTie2との結合解析については、活性型組換えVASH1タンパク質の作成中であり、現在、昆虫細胞過剰発現系により得た組換えVASH1の活性調査中である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)VASH1がVE-カドヘリン複合体の細胞内取込みに及ぼす影響の検討 ビオチン化アッセイやFACScan解析では細胞間接着に寄与しているVE-カドヘリンを測定することが出来ず、VEGF刺激による細胞表面からの取込みも有意に検出できなかったため、生化学的な細胞内取込みの解析については細胞成分の分画(膜と細胞質)に止めることにする。細胞生物学的解析として、VE-カドヘリンとEEA1との共局在をin Situ PLAで解析することに加えて、細胞内に取り込まれたVE-カドヘリンを特異的に染色することにより(Antibody feeding assay)、細胞内に取込まれたVE-カドヘリンを可視化して観察・定量する。 (2)Ang/Tie経路とVASH1によるGlu-チューブリン増加との関係性の検討 組換えAng類は高価であり解析に使用するには高コストであることから、培養細胞における過剰発現系を用いて安価に質の良い組換えAng類を産生・精製する方法も検討に入れ、時間とコストに無駄のない実験系を再構築する。 (3)Ang産生に対するVASH1の影響の検討 培養ペリサイトは高価であることや、内皮細胞とペリサイトをそれぞれ単独で培養した際のAng産生は、生体内での状態からは遠いと考えられたため、内皮とペリサイトを混合した初代培養もしくは組織培養により解析する。組織培養においてはマウス胎児の尿膜を分離・培養し、形成された脈管について解析する。(※この組織培養については、東北大学内の動物実験委員会の承認を得た上で同委員会の定める動物実験施設指針等に則り、動物愛護を配慮して実施する。)
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次年度使用額が生じた理由 |
VE-カドヘリンの細胞内取込みに対するビオチン化アッセイやFACScan解析が有効では無いことが、実験の条件検討の段階で早期に判断出来たため、これらの解析に使用する為に予算計上していた消耗品費が残った。 また、Ang産生解析において培養ペリサイトを単独で使用する必要が無いと判断されたため、培養ペリサイトを購入する為に予算計上していた消耗品費が残った。
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次年度使用額の使用計画 |
VE-カドヘリンの細胞内取込みを可視化するためのAntibody feeding assayに使用するVE-カドヘリンの細胞外ドメインを認識する抗体を購入するために使用する。 また、Ang産生解析に用いる初期培養・組織培養のための各種消耗品等(内皮・ペリサイト単離用の抗体やMACS細胞分離試薬、培養皿コーティング剤等)を購入するために使用する。
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