研究課題
エピゲノムの異常はがん化の一因として考えられているが、動物個体において特定領域のエピゲノム異常によりがんが誘発される否か明らかになっていない。そこで本研究では個体レベルで標的配列のエピゲノム編集を可能にする技術を開発し、がんエピゲノム変異と発がんとの関連性を動物個体で明らかにすることを目的とする。平成27年度の研究計画はCRISPR/Cas9改良によるエピゲノム編集ベクターの構築である。培養細胞を用いて、Cas9/ガイドRNAゲノム編集技術の改良により特定領域にエピゲノム変異を誘導可能なエピゲノム編集技術(ベクター)の開発を試みた。細胞はNanogプロモーター制御化でGFPを発現するマウスiPS細胞及びマウスES細胞を用いた。Cas9及びガイドRNA(Nanogプロモーター標的配列を含む)発現ベクターを細胞へ一過性に導入し、長期的なNanogプロモーター活性の抑制効果をGFP蛍光にて、短期的な抑制効果をルシフェラーゼアッセイ(Nanog-luc)にて評価した。1.KRAB融合型Cas9蛋白質の一部欠損変異体発現ベクターを作製し、機能的な縮小化Cas9発現ベクターの同定を行った。その結果、約700アミノ酸を欠損したCas9-KRABでも機能することが示唆された。しかし、縮小化Cas9の活性はWTに比べ限定的であり、効率の面で改善する必要がある。2.ガイドRNAにDNAメチル化酵素及びヒストン修飾酵素の足場となるlncRNAを融合し、Nanog-lucの抑制効果を検討した。複数のガイドRNAやlncRNAの組み合せを検証した結果、より高い抑制効果を示すベクターが明らかとなった。
3: やや遅れている
Cas9システムを応用したエピゲノム編集技術の開発において、培養細胞にて一定の効果が得られているものの十分な効果を示すベクターの開発には至っていない。次年度の動物個体での検討前に、引き続き培養細胞を用いてベクターの改良を検討する必要がある。
引き続き培養細胞を用いて効率的にエピゲノム編集が可能なベクター構築の検討を行う。培養細胞レベルで十分な効果を示すベクターを構築後、マウス初期胚を用いてNanogプロモーターに対するエピゲノム編集が個体レベルでも可能か検討する。更に、構築したベクター系を用いてヒト大腸癌で高効率で検出される既知のエピゲノム異常をマウス個体へ誘導し、発がんが誘発・促進されるか否か明らかにする。
すべて 2016
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Stem Cells
巻: 34 ページ: 322-333
10.1002/stem.2243.